ひとみ
気が付くと、ボクはベッドの上に寝ていた。
おでこに濡れタオルが乗せられていた。
部屋に人の気配を感じたボクは、その方向に視線をやった。
ひとみさんが、椅子に座って雑誌をパラパラとめくっていた。
「ひとみさん」
ボクは彼女の名を呼んだ。
ひとみさんは顔を上げボクに視線を移した。
「やっと気が付いたか。大変だったんだよ、駿平君を運ぶの」
彼女は口元に笑みを浮かべながら続けた。
「それより、具合どう?」
ひとみさんの瞳は、普段より優しい色に包まれていた。
こんな表情もするんだ………
ふと、そんなことを心に思った。
「とりあえず熱計って」
そう言って彼女はボクに、体温計をくわえさせた。
「薬飲まなきゃね。でもその前になんか胃に入れとかないとね。プリンかなんか買ってきてあげるけど、リクエストある?」
こっちが訝しく思うくらい、彼女は優しくボクに訊いた。
ボクは水が飲みたいと、ひとみさんに伝えた。
体温計の電子音が鳴った。
相変わらず39℃を示している表示を見て、彼女は顔をしかめた。
「水持ってくるから、ちょっと待ってて」
そう言って、彼女は部屋を出て行った。
しばらくすると、コップ1杯の水を持ってひとみさんは現れた。
「じゃあ、これ飲んで。私、薬と食べ物買ってくるから、ちょっと待っててね」
そういい残し、彼女は再びボクの部屋をあとにした。