ひとみ
キスだよな………これ?
朦朧とした意識の中に『キス』という言葉が駆け巡る。
その瞬間、ボクの唇からひとみさんの温もりが消えた。
そして、彼女の囁くような声が耳に届いた。
「熱の下がるおまじないよ」
ボクはその言葉を聞きながら、睡魔に身を任せていった。
次に目が覚めると体はだいぶ楽になっていた。
翌日には熱もきっちり下がり、ベッドから抜け出ることが出来た。
ひとみさんのおまじないが効いたのか、薬が効いたのか判断はつかないが、有り難いことだ。
「ひとみさん、看病していただいて、ありがとうございます。おかげですっかり、よくなりました」
ボクは彼女にお礼を言った。
だが、ひとみさんは顰めっ面でボクを睨んでいた。
「大声出さないで。今度は私が風邪ひいちゃったみたい。頭痛いし、熱っぽい。ダメだ、少し寝るわ」
そう言って彼女は自分の部屋に帰っていった。
「あっ、駿平君、なんか甘いもの買ってきて」
おまじないは、ボクを救ってくれたが、彼女に返ってしまったようだ。
人を呪わば穴ふたつ
そんな言葉が頭をかすめた。
確か、「おまじない」って漢字でかくと『お呪い』だったよね。
その時、ボクは決めた。
決してひとみさんに対して、『熱の下がるおまじない』はしないでおこうと。