ひとみ
さっそく、ボクは近所でレンタカーを手配した。
本当は大きなRV車に乗りたかったが、首都高みたいな込み入った道路や、田舎の細い悪路を走ることを考え、普通のコンパクトカーを借りることにした。
正直、車の運転は久しぶりだし、自信もない。
車体の大きな車は逆に怖いかもしれない。
とりあえず、カーナビを南伊豆の弓ヶ浜にセットして、ドライブに出かけた。
助手席ではひとみさんが、サングラスをかけ鼻歌を歌っている。
なかなかご機嫌が麗しいようである。
「ねぇ、駿平君、どのくらいで着くかしら?」
上機嫌な彼女はボクに訊いた。
「首都高抜けちゃえば、5時間くらいで着くんじゃないかなぁ」
ボクの言葉にひとみさんは、少しつまらなそうな顔をした。
「えぇ~、そんなにかかるの?海入れないじゃない!せっかく、駿平君が喜びそうな水着用意してきたのにぃ~」
ボクは何をどう突っ込もうか少し悩んだ。
「いや、ひとみさん、もう9月も中旬ですよ。クラゲだらけで海なんか入れませんよ。それと、何なんですか、ボクの喜びそうな水着って」
彼女は心底がっくりした表情を浮かべた。
「9月って海入れないの?だから、安売りしてたのか………ダマされた!いいわ、今度プール行こうよ、駿平君」
どうしても彼女は水着を披露したいようである。
ひとみさんはタバコに火を点け窓を開けた。
「それにしてもいい天気ねぇ。たまには、こういうのもいいわね」
最近、黒く染め直した彼女のサラサラの髪に、夏の終わりの陽射しがあたる。
風に舞うように、彼女の髪から何ともいえぬ、いい香りが漂う。
ボクはなんだか、嬉しくなった。
端から見たらボクたちってどう見えるのかな?
ふと、そんなことを考えてしまう。