ひとみ
「ひ、ひとみさん!?」
振り返ったボクの視界に飛び込んできたのは、タオルで体の前を隠しただけの彼女の姿だった。
ボクは慌てて視線を逸らした。
「な、なんで、ひとみさん、男湯に入ってくるんですかっ!」
そう言ったボクの声は、思いっきり上擦っていた。
「なぁ~に言ってんのよ、駿平君。ここ、混浴の露天風呂よ」
な、なんですと?
「それより、隣、いいかしら?」
そう言って、ボクの返答を待つこともなく、ひとみさんはボクの隣に腰を下ろした。
「ホント、星がキレイねぇ~」
ボクのすぐ隣から、彼女の声が聞こえる。
「ねぇ、駿平君。ホント、ありがとね。今日、すごく楽しかったよ」
ボクは、すぐ隣の彼女に目を向けることができなかった。
本当はすごく、そちらに向きたいのだが。
仕方なく、空を見上げたまま、ボクは小さく頷いた。
「なぁに、さっきから空ばっか見てるのよ」
そう言って、ひとみさんはボクの肩にそっと寄り添ってきた。
「なによぉ、緊張してるの?かわいい」
彼女の柔らかい体がボクに触れている。
「か、からかわないで、く、くださいよ」
空を見上げながら、ボクは精一杯の言葉を口にした。
「ごめん、ごめん。でも、ホント、駿平君て、ウブよねぇ」
笑いながら彼女は言った。
「だ、だからって、か、からかわないでくださいよ」
「はいはい、わかったわよ。それにしても、ホント、キレイな夜空ねぇ。こうやって、駿平君と星空眺めるのも悪くないわねぇ」
ボクらはしばらく、黙ったまま空を見上げていた。
すると、流れ星が一筋の光を残し、空を横切っていった。
「ねぇ、駿平君。見た?今の流れ星」
彼女の言葉に、ボクは微笑みながらコクリと頷いた。