ひとみ
なにごともなく、露天風呂から生還したボクは、浴衣を着て部屋へと戻った。
部屋にはすでに、夕食の支度がされていた。
なかなか豪勢な食事である。
刺し盛りをはじめ、様々な小鉢に美味しそうな料理がのっている。
しばらくすると、浴衣を纏ったひとみさんが部屋に戻ってきた。
「あぁ~、いい湯だったわ。おっ!これはまた、美味しそうなご飯が並んでるわねぇ~」
彼女は食事を見るなり嬉しそうな笑顔を見せた。
洗い髪を片方に束ね、浴衣から覗く彼女のうなじに、ボクは思わず、喉をゴクリと鳴らしてしまった。
その音を聞いてだろうか、
「駿平君、そんなにお腹空いてるの?じゃあ、さっさといただきましょうか?」
と、彼女は呑気に言った。
まぁ、この勘違いを訂正する必要はないので、ボクはそのまま頷いた。
「そうだ、ひとみさん、ビールいるでしょ?」
ボクの問いに、彼女は、当然といった顔で頷いた。
それをうけ、ボクはインターフォンでビールを2本注文した。
しばらくすると、女将さんが瓶ビールを持って部屋に現れた。
「お風呂はいかがでしたか?」
女将さんはそう訊きながら、ボクらのグラスにビールを注いだ。
「えぇ、とてもいい湯でしたよ。露天風呂の景色もよかったし」
ひとみさんの言葉に、女将さんは嬉しそうにお礼を述べていた。
「そうそう、新田様。日本酒とかはお飲みになられますか?もしよろしければ、後ほど4合瓶を1本お持ちいたします」
「日本酒?いいわねぇ~」
女将さんの言葉にひとみさんは嬉しそうに答えた。
「あぁ、よかったです。新田様のお父様とのご縁ですから、少しサービスさせて頂きたく思っておりましたものでして」
女将さんは、そう言って部屋をあとにした。