ひとみ
あ、あ、あぁ、な、なんてことだよ!
ボクの変化に、彼女は気付いたのだろう。
「ごめんなさい、駿平、私、あなたの、あなたの、お父さんの、公平さんの、元妻です。そして、駿平、あなたの、母親です」
そう言って、彼女は泣き崩れた。
そんな女将さんを、ボクは、意外なほど冷静に見つめていた。
自分でも、少し驚いている。
正直、実感はなにもない。
いや、寧ろ、軽く怒りすら感じている。
「だから、なんだっていうのですか?」
ボクは自分て聞いた、自分の声の冷淡さに改めて驚いた。
「今さら、『母さん』て呼んで欲しいんですか?できるわけ、ないでしょ!」
冷たいボクの言葉は、泣き崩れる彼女の心に、突き立てられたナイフとなった。
目の前で母と名乗った女の人は益々激しく声を上げ涙を流した。
「ご、ごめんなさい、ただ、ただ、駿平、あなたに、謝りたかったの、母親となんて、思ってくれなくても、いいの、あなたを、捨てたことも、許してほしいなんていえない、でも、謝りたいの、心から、謝りたいの」
彼女は顔をくしゃくしゃにしながら謝り続けた。