ひとみ
「いいですよ、別に謝ってもらわなくても」
ボクは彼女の贖罪の気持ちを拒んだ。
「そんなことされても、あなたの自己満足に過ぎないでしょ?ボクには母親がいなかった。その事実は変わらないんだから」
冷たく言い放ったボクを、彼女はなにも言わず見つめていた。
そしてそのまま静かに立ち上がり一度大きく頭を下げ部屋を出て行った。
そのあと、ボクは拳を思いっきり畳に振り下ろした。
何度も、何度も、振り下ろした。
「あ~ら、荒れてるわねぇ。感動の親子の再会とはいかなかったみたいね」
いつの間にか、ひとみさんが部屋の中にいた。
彼女は腕を組んだまま、ボクを見つめていた。
次第に彼女の姿が歪んでいく。
ボクは自分が泣いていることに気付いた。
「まぁ、しょうがないか」
彼女はそう言って、ボクの隣に腰を下ろした。
「そりゃあ、駿平君が怒るのも無理ないよね。赤ん坊の頃に、自分を捨てて出て行ったんだからね。そんな人が今になって『私があなたの母です』なんて言ってきても受け入れることなんか出来ないわよね」
ひとみさんは、そう言うと、ソッとボクの頭に手を置いた。
そして優しく撫でてくれた。
「駿平君の気持ちはわかるけどね、だけど、私にしてみたら、ちょっと羨ましい話でもあるなぁ」
ひとみさんはタバコに火を点けながら言った。