おまえのこと、待ってる。
けど、そう願う私に彼は容赦なくとどめを刺した。

「ほんっと、不器用だな」

彼の大きな手が私の髪にふわりと触れる。

すると、彼はこれでもかというくらいに私の頭をくしゃくしゃに撫でた。

「ったく。おまえはバカがつくほどお人よしだけど、バカじゃないだろうが」

「うわわわ、もうっ、髪ぐちゃぐちゃだよっっ」

不器用なのは紛れもない事実だし。おバカなお人よしってことも嫌ってほどわかってる。

でも、こんな言い方って、こんなやり方って――こういう優しさって、すごくずるいよ……。

「なあ――」

「えっ」

ひじ掛けのないオフィスチェアは寄り添うようにくっついて、すかさず彼は私の肩をぐっとそばに抱き寄せた。

どうしようっ、近いよっ、近すぎるよっっ。

「おまえさ、いい加減いい子ぶるのはやめて素直になれよ」

完全に上から目線で、余裕綽々の表情の彼。

「本当は欲しくてたまらないんだろ? この俺のことが」

「な、何言って……」

「ん? 欲しくないのか?」

彼が意地悪な笑みを浮かべて私の顔をのぞきこむ。

あーあ、どうして困らせるかな、もうっ……。

ズバッと遠慮なく本心を見抜いて追い詰めてさ。

それに――意地悪な表情もやっぱり魅力的だから。

悔しいけど、すっごくドキドキしちゃうじゃない。

けど、私には私の事情があるのだもの。

「だって……」

「だって?」

「周りの人のこととか、タイミングとか色々あるし……」

そう、あなたが言うほど簡単じゃないの。

なのに、あなたときたら――。

「欲しいなら奪ってみせろよ」

「ぃやっ……」

耳元で甘く妖しくささやかれて、その快感に思わず身震いしてしまう。

「おまえ、ほんっと可愛いよな」

「意地悪……」

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