ハードルは高いけど。
ハードルは高いけど。
「もうそろそろ、慣れてもいいと思うんだけど」

 向かい合う彼は、嘆息を吐きながらそんなことを言う。たしかに、言うことはもっともだと思う。
 ――けれども。

「……勉強はしているんですけど、なかなか……。申し訳ないです」

 沈んだ声を吐き出す私に返るのは、「勉強ねぇ」と不機嫌な声だ。
 ですがね、こっちも必死なんですよ。説明書や教本を読んではインプットをしているんですよ。いま現在だって、慣れない機械にてんやわんやですよ。
 長年使い慣れたOSから使い慣れないOSへと変更を余儀なくされてしまえばそんなもんですよ。
 周りはもう使いこなせる人が多数いたりするけれど、私はまだまだだ。これが、指に染み付いた慣れというやつなのだ。新しいものに慣れるのには時間がかかってしょうがない。若い子はすぐに覚えられていいよなー。ちきしょうめ。
 ――あ、しまった、また押し間違えた!

「……けどまあ、勉強していることは認めるよ」
「はい?」

 いまなんと仰いましたたか?
 思わず手が滑ってしまいましたけど!?

「いまも頑張ってるしね」

 彼が視線を向けるのは、私の片手脇にある教本だ。付箋が踊るそこに熱い視線注がれている。
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