ただし××な意味で【完】
あれから簡単に懐いた私を、邪険に扱いつつもこうやって構ってくれる優しい人。
だけど片思いを始めて一年ちょっと、着実に距離は縮まっているはずなのに内原さんの心の中は一向に見えない。
「あー、そう。若い人にそう言ってもらえるとお世辞でも嬉しいねぇ」
そんな風におどけて誤魔化す。全然相手にしてもらえていない。
内原さんをじっと睨みつけながら紅茶をすすれば、体がゆっくり温まった。好きな人の淹れてくれるお茶って特別美味しい気がする。
そういえば、このお茶は私のために毎回内原さんがわざわざ用意してくれているのだ。だって彼は紅茶を飲まない。
それだけで嬉しくなって満足してしまってたからダメだったんだ、昨日までの私は。もっと押せ押せでいかなければ、この人は分かってくれない……! 私があなたを、どんなに好きか。
「お世辞じゃないよ、本心だもん」
「へえ、それは有り難い」
「内原さん」
「うん」
内原さんに倣って紅茶は机に置いた。
本来躊躇うべき言葉は案外簡単に口を衝いて出てくれる。
「好きです」
彼が一瞬息を止めたのが、空気を通じて伝わってきて、ちょっとだけ緊張した。……怯むな私。もう一押し。
「好きです」
「……うん」
躊躇いがちに打たれた相槌に、胸の奥がきゅっとする。
もう一押し。