視線の先【ぎじプリ】
「念には念を、ですよ。ウチの上司忙しいから時間に厳しいんです。そもそも先約は私ですよね? 繋げるの照井さんしかいないんですから。ほら、早く早く!」

照井さんは、「ったく、人使い荒ぇな」と小さくため息をつきながら、定位置である前方へ歩き、準備を始める。

「いつものとこでいいの?」

「はい。本社の15階です」

「えーと……、IPアドレスの設定と……」

「よろしくお願いしますね」


他の準備はもう終わってしまったので席に座って照井さんの様子を眺める。

照井さんは何でもないことのように操作しているけど、システムに疎い私には何をやっているのかちんぷんかんぷんだ。暗号のような数字の羅列ばかりでわけが分からない。

自分ができないからというのもあるけど、システムに強い人って頼りになるし、格好良さが3割増になる気がする。

まぁ、それでなくてもこの人は地味に目を引くルックスなんだけど。すらりとした長身で切れ長の目、濃いグレーのスーツを着こなしていて、いつもスマートに仕事をこなす。仕事の丁寧さのおかげか、その口の悪ささえ女性社員には陰ではギャップ萌えだと好評で、なんていうか「いろいろズルい!」と叫びたくなる。



「今日のメインは私の事例発表なんです」

「へー」

小さな部屋で無言でいるのも落ち着かないので、彼に声を掛けた。だけど、返事はどうもそっけない。

「先週そこそこ大きい案件が決まったんですよ」

「へー」

「いや、そんなあからさまに興味なさそうな言い方しなくてもいいじゃないですか。お世辞でも、良かったね、とか、頑張ったねとか言ってくださいよ」

「よかったね」

「酷い! 感情込められてなさすぎですよー」


いつも彼は私との雑談中に手を止めることはない。もちろん彼に仕事してもらわないと困るのは私のほうなのだけど。私のことなんてまったく眼中にないといわんばかりの態度は少し不満だった。

ふざけたように言っても本当は少し照井さんのそっけなさが悲しくもあった。


そこから、なんとなく何も言えなくなり、沈黙が続いた。

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