視線の先【ぎじプリ】
「いい加減ムカつくから繋げるのやめようかと一瞬思っただけ。結局ちゃんと繋げるんだからいいだろ、別に。じゃ、俺、設定変えたから一回再起動する」

「え、今、待っ……」

声を掛けるよりも前に、彼は静かに目を閉じた。こうなると、目覚めるまで1分弱かかる。



「もぉ」

ムカつくから繋げるのやめようって、どういうことよ。そんな意味深なこと言って逃げないでよ。

静止した彼に近寄り、しゃがみ込み、閉じた瞳を見つめた。



彼はいつか、その勘違いに気づくだろうか。


毎週水曜日、彼を通じて東京の本社の上司と会議をしている。

確かにそこに映っているのは会議の相手である上司で、私は彼に向かって話している。確かにやり手で頼りになる上司で信頼しているけど、だけどそれだけ。特別な感情なんてない。

何百キロも離れたところにいる上司なんかより、私が本当に気になって仕方ないのは目の前にいる照井さんだ。


「私の視線の先にいるのは、あなたなんですよ」

なんて、今言っても聞こえないけど。

接続確認があるから早めに準備をするっていうのは言い訳。本当は30分前からでも余裕だ。でも、少しでも照井さんと二人で過ごす時間が長くなったらいいなと思って45分前に約束している。

彼と過ごすから、水曜日はお気に入りの服を来て、髪も時間かけてアレンジしたりして。

確かに、これじゃあ「想い」があることはバレバレかも。


私のだだ漏れの「想い」の先にいる人。

もしこのまま彼が目を開くまで見つめていたら、視線の先の本当の相手が誰か、気づいてくれるだろうか。


彼の意味深な言葉が、私の背中を押す。

彼が目を開くまであと少し。

私は息を止めて、それを待った。




擬人化 : テレビ会議システム

【完】
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