ごくまれな事なので、ついでに奇跡も起きたらいいのに
香奈も去ったその場所では、彼『自動販売機』が穏やかな顔で佇んでいる。


「嬉しそうだな」

隣の先輩自販機が彼に話しかけた。


「はい。彼女たちのことずっと見てましたから。お互いに意識し合ってるのに『お疲れ様です』しか言わないんですよ」

「俺も見てたよ。君のお客さんだから、君ほどの思い入れはなかったがね」

「三浦くんなんて違うフロアだから、香奈がいる時しかここに入って来ませんからね。なのに、いつもそこで話しかけないのかーって。まあ、さっきももう少し会話しろって感じですけどね」

彼が呆れたように笑うと、先輩自販機は問いかけた。


「でも、ちょっと妬けないか? あの子は君のお気に入りだろう?」

彼は一瞬目を見開いてから、ゆっくりと小さく首を横に振った。

「好きな人が幸せなら自分も幸せって言うじゃないですか。……あ。また誰か来ましたね 」



今日も明日も明後日も、彼は彼女を見守って、彼女の幸せを願っていく。

彼女の好きなレモンティーを持って。




**本作のプリンス『休憩室の自動販売機』
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