夢が醒めなくて
それにしても修学旅行、か。

今の小学生って、どんな服や下着が主流なんだろう。
少なくとも、今、啓也くんが身につけているものは違う気がする。

この施設は、掃除も洗濯も行き届いていて清潔感はあるけれど……特に女の子はそれだけじゃかわいそうだよな。
 
毎週お母さんが逢いに来る美幸ちゃんはともかく、希和子ちゃんや照美ちゃんは、学校で恥ずかしい想いをしてないだろうか。

気になりだすと、頭から離れない。


結局、帰宅して母親に相談してみた。
大学のボランティアサークルに同行してる俺が個人的に特定の子達に寄付するのが妥当なのか自信がないし、篤志家に託したほうが無難な気がした。

思った通り、誰に対しても世話好きな母親は、嬉々として小学生高学年用の洋服や下着をどっさり購入して、自ら施設を訪問して届けたらしい。

「ちゃんと、今年の林間学習や修学旅行の時に新品を使わせてくださるようお願いして、当該の子達に手渡しさせてもらったわよ。」

完璧!

「ありがとう。さすが!」
災害地に支援物資を送っても必要な人に速やかに分配されない苦い経験をしてきたので、母親は直接的に動いたそうだ。

「ついでに乳児院も見学させてもらったけど、ほんと、かわいかったー。養子は反対されるでしょうけど、里親ならいいかしら?お父さんに聞いてみようっと。」

由未が家を出て丸二年以上たつ。
アレルギーでペットを飼えない母親は、溢れる愛情を持て余し、最近では昼間里親を引き受けている。
両親が働いているため、放課後帰宅しても家で独りぼっちになってしまう、いわゆる鍵っ子を家に招いて一緒に過ごしているようだ。

「それにしても、ひと癖もふた癖もありそうな子たちと仲良くなったわねえ。義人らしいけど。」
母親はニンマリ笑ってつけ加えた。
「あの子でしょ?希和子ちゃん。」

「え?何が?」
突然、名前を出されて驚いた。

「何がって、義人の気になってる子。美幸ちゃんは美人になりそうだし、照美ちゃんもかわいいけど、義人のアンテナに引っ掛かるとしたら、希和子ちゃんやわ。でしょ?」
母親に指摘されて、俺は返事できなかった。

自覚してなかったけれど、確かにずっと気にしてはいる。
残念ながら、希和子ちやんには嫌われちゃってるみたいやけど、それでもやっぱり気になっている。

希和子ちゃんだけ、まだ笑顔を見てない。
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