夢が醒めなくて
「こんにちは。先日は、ありがとうございました。」

「いらっしゃいませ。ネックレス、やっぱりピンクをお勧めして正解でしたね。とても映えてらっしゃって。ご愛用いただき、ありがとうございます。今日は如何いたしましょう?イメージを仰っていただきましたら、ご自宅へお持ちしましたのに。わざわざのお運び、ありがとうございます。」

「妹に内緒で、急いでるもので。希和?どう思う?」
立て板に水の社員を遮って、希和に聞いた。

「えーと、帯留めはどうですか?」
まさかの和装アクセサリーに驚いた。

「え!?なんで?」
「恭匡(やすまさ)さんの選ばれるデザインって、とても上品でかわいくて……アクセサリーはあの系統で揃えてらっしゃるのかな、って思って。お姉さんは、こだわりがあまりなさそうでいらしたけど、恭匡さんの好みを逸脱しないほうがいい気がして。」

ふーむ。
確かに由未は、既に恭匡さんプロデュースされてた気がする。

「帯留めね。じゃあ、それで。いろいろ見せてもらえますか?」
社員さんにそう頼んでおいて、希和を連れて店内をぐるりと回った。

「俺から希和にもプレゼントしたいんやけど、……その真珠の代わりに学校にしていっても差し支えなさそうなネックレス。希和はどんな石が好き?」

希和は足を止めて、俺を見た。
口も目も……鼻の穴までちょっと開いていて……驚いてるのがすごくよくわかって、たまらなくかわいらしかった。

「私、よくわかりません。そんな。いいです!」
まあ、要らないって言われると思ってたよ、うん。

「じゃあ、俺が選ぶ?希和にはピンクのルビーがかわいいかなーって思ってるねんけど……一粒ダイヤでもいいかもな。それか……」
希和をほっといてネックレスを見て廻ってると、背中にドンと衝撃が走った。

「わ!ごめんなさい!……あの!ほんとにいいです!」
慌てて俺を追いかけてきた希和がぶつかったらしい。

……かわいすぎるだろ、それ。

「よくない。希和が由未に何か贈りたいって思ったのと同じ。俺もどうしても希和に贈りたい。せやし、選んで。希和がつけてたいって思うモノ。」
黙ってうつむいた希和のすぐ前にしゃがみ込んで、しつこく聞いた。
「希和はどんな石が好き?」

しばらく黙ってた希和がよくやく口を開いた。
「真珠は好きです。」

「うん。よく似合ってる。かわいくて品があって。……じゃあ、一粒パールは?」

「あの、もし何でもいいなら、私、琥珀が欲しいです。」

こはくぅ?
「琥珀って、樹脂やで?」

宝石じゃない。
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