夢が醒めなくて
希和はこっくりとうなずいた。

「樹脂です。でも石よりロマンを感じます。……真珠が好きなのも、アコヤ貝に大切に育まれた優しさを感じるからです。」

なるほど。
そういうのが好きなのか。
いや、でも、琥珀って……虫とか葉っぱとか入ってて美しくないやんか。

「虫入りの琥珀って、アクセサリーにするには気持ち悪くない?」
そう聞いたら、希和は苦笑した。
「まあ、そうですね。落ち葉のほうが抵抗はないですね。あとは、鍾乳石とか、珊瑚とか……」

何となく、傾向はわかった。
長い年月で育つモノがいいんだな。
わかったけれど、どうも納得いかないというか……。
希和が遠慮して、ふつうの宝石を避けてるんじゃないよな?

「でしたら、ベビーサイズのネックレスとゴールドを合わせるのはいかがでしょう?」
先ほどの職員さんが背後から声をかけてきた。

「ベビーサイズ?」
「合わせる?」
希和と俺は、それぞれ別の部分に疑問を感じているようだ。

プロのほほ笑みを携えて、職員さんは言った。
「はい。先日のピンクパールにも合いますので、次の機会にお勧めするつもりだったのですが……こちらをご覧になって、少々お待ちくださいませ。準備して参ります。」

置いてったのは、色んな石の帯留め。
大きな石もあれば、金物細工に石をちりばめたものもある。

「綺麗……。」
希和は目の前の帯留めに目を輝かせた。

「へえ。どれがいいかな。」
「お母さんが、由未お姉さんは寒色が似合うと仰ってました。だから……緑の翡翠や碧瑪瑙か……」

希和がそのまま黙って固まってしまった。

どした?
覗き込むと、希和の瞳がキラキラうるうるしてる。
「気に入ったんか?どれや?」

希和は俺に視線を移して、訴えた。
「これ!これがいい!すごく素敵!天の川!」

指さしたモノは、濃い瑠璃色の楕円形の帯留めだった。
控えめだけど凝った銀細工の枠の中に、まるで宇宙のように星がちりばめられていた。

桐のケースごと手にとってみる。
「ラピスラズリ。瑠璃石か。いいんじゃない?」

そう言うと、希和は
「瑠璃石……」
と呟いた。

「ああ。瑠璃石。濃いイイ色だな。黄鉄鉱が多い。希和の言う通り、天の川みたいやな。うん。いいんじゃない?これにしようか。」

そう決めると、希和の口元が一瞬だけ、ふにゃっと緩んで、また戻った。
……喜んでるらしい。

うーん。
今のは笑顔なのだろうか。

てか、どうして、普通に喜んだ顔ができないんだろう。
そんなにも、喜ぶことが少なかったのか?

不憫すぎる。
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