夢が醒めなくて
恭匡(やすまさ)さんと由未は、翌日、東京に帰って行った。
……俺に、天花寺(てんげいじ)家の京都別邸の鍵を預けて。
「はい、鍵。好きに使ってくれたらいいって。」
さらに翌日、引っ越して来た小門(こかど)に、恭匡さん家(ち)を引き渡す。
「ありがとう。てか、竹原にまで迷惑かけて、悪いな。」
申し訳なさそうにはにかむ小門の横で、奥さんのあおいちゃんは俺をやぶにらみしていた。
「いや。全然。……ひさしぶり。あおいちゃん。元気そうやね。合格おめでとう。」
一応、友好的にそう挨拶した。
あおいちゃんはニコリともせずに挨拶を返した。
「ありがとうございます。由未ちゃんも。おめでとうございます。合格も結納も。」
やれやれ。
嫌われたもんだな。
どうも初対面の時から、あおいちゃんとはソリが合わない。
「あーちゃん。」
天使のような男の子があおいちゃんの手を引いた……まるで無愛想なあおいちゃんを窘めるように。
「竹原。光(ひかる)や。3歳。」
小門が男の子の頭にポンと頭を置いて、紹介した。
「光くん?……はじめまして。よろしくね。」
俺はしゃがみ込んで、光くんと目を合わせてそう挨拶した。
ニコッと光くんは、すいたらしい笑顔を見せてくれた。
見た目は天使にしか見えない美貌の童子だが、その瞳は深いところまで澄んでいるようで……まるで仙人みたいだな。
……改めて、俺は小門をすごいと思った。
いかにもめんどくさいあおいちゃんを妻として、どう見ても普通じゃない光くんを我が子として育ててるのか。
器のでっかい奴だよ、ほんと。
「これ。引っ越してきてすぐは慌ただしいやろし、って、うちの母から。」
世話焼きな母は、水やお茶、ジュースと共に、和食の折詰弁当と、フレンチ総菜を幾種類かとサンドイッチを俺に届けさせた。
「……気を遣わせて申し訳ない。今日はありがたく頂戴するけど、これ以上は丁重に辞退するから、よろしく伝えてくれ。」
既に荷解きを始めたあおいちゃんにも礼を言うように促して、小門は受け取った。
「さっちゃん見る?」
用事を終えて帰ろうとしたら、光くんがそう言って俺の足にしがみついてきた。
「さっちゃん?」
誰だ?
お友達?親戚?ペット?
「光くんのお友達?」
膝を折ってそう尋ねると、光くんはパッと顔を輝かせてうなずいて、ターッと走って隣の部屋へ駆け込んで行った。
……ペットを飼ってるとは聞いてないけど……金魚かハムスターかカブトムシでも連れて来るのだろうか。
……俺に、天花寺(てんげいじ)家の京都別邸の鍵を預けて。
「はい、鍵。好きに使ってくれたらいいって。」
さらに翌日、引っ越して来た小門(こかど)に、恭匡さん家(ち)を引き渡す。
「ありがとう。てか、竹原にまで迷惑かけて、悪いな。」
申し訳なさそうにはにかむ小門の横で、奥さんのあおいちゃんは俺をやぶにらみしていた。
「いや。全然。……ひさしぶり。あおいちゃん。元気そうやね。合格おめでとう。」
一応、友好的にそう挨拶した。
あおいちゃんはニコリともせずに挨拶を返した。
「ありがとうございます。由未ちゃんも。おめでとうございます。合格も結納も。」
やれやれ。
嫌われたもんだな。
どうも初対面の時から、あおいちゃんとはソリが合わない。
「あーちゃん。」
天使のような男の子があおいちゃんの手を引いた……まるで無愛想なあおいちゃんを窘めるように。
「竹原。光(ひかる)や。3歳。」
小門が男の子の頭にポンと頭を置いて、紹介した。
「光くん?……はじめまして。よろしくね。」
俺はしゃがみ込んで、光くんと目を合わせてそう挨拶した。
ニコッと光くんは、すいたらしい笑顔を見せてくれた。
見た目は天使にしか見えない美貌の童子だが、その瞳は深いところまで澄んでいるようで……まるで仙人みたいだな。
……改めて、俺は小門をすごいと思った。
いかにもめんどくさいあおいちゃんを妻として、どう見ても普通じゃない光くんを我が子として育ててるのか。
器のでっかい奴だよ、ほんと。
「これ。引っ越してきてすぐは慌ただしいやろし、って、うちの母から。」
世話焼きな母は、水やお茶、ジュースと共に、和食の折詰弁当と、フレンチ総菜を幾種類かとサンドイッチを俺に届けさせた。
「……気を遣わせて申し訳ない。今日はありがたく頂戴するけど、これ以上は丁重に辞退するから、よろしく伝えてくれ。」
既に荷解きを始めたあおいちゃんにも礼を言うように促して、小門は受け取った。
「さっちゃん見る?」
用事を終えて帰ろうとしたら、光くんがそう言って俺の足にしがみついてきた。
「さっちゃん?」
誰だ?
お友達?親戚?ペット?
「光くんのお友達?」
膝を折ってそう尋ねると、光くんはパッと顔を輝かせてうなずいて、ターッと走って隣の部屋へ駆け込んで行った。
……ペットを飼ってるとは聞いてないけど……金魚かハムスターかカブトムシでも連れて来るのだろうか。