夢が醒めなくて
けど、希和は大きく目を見開いて、セルジュを凝視していた。

いつまでも返事しない希和に、セルジュが困ったように俺を見た。

「希和?……もしかして、見とれてる?こいつ、外見は童話の王子さまでも、中身は鬼畜やで?」
くそ面白くなくて、俺はそう言った。

ハッとしたように希和はうつむいて、セルジュにお辞儀した。
「失礼しました。竹原希和子です。兄が……姉も、お世話になってます。それから、榊高遠さんの夕霧抜擢、おめでとうございます。」

準備していたのか、真面目にそう挨拶した希和に、セルジュがウィンクして、しいっ……と、ゼスチャーした。

「すみれコードに引っかかるから、静稀のことはココでは小声でね。……礼儀正しいお嬢さんだね。がさつな由未とは大違い。」

くすくすと笑いながら、セルジュはそう言った。
希和は、静稀ちゃんの芸名を出してしまったことを失言だったと思ったらしく、口を閉じてまたうつむいてしまった。

「大丈夫や。」
そう言って、希和の髪をそっと撫でた。

でも希和は、セルジュも一緒にコーヒーを飲んでる間も沈んだまま。
やれやれ。

「俺、まだ、希和の心からの笑顔、見たことないねん。」
お手上げだ……と、俺はセルジュにそう訴えた。

希和がパッと顔を上げた。
困ったような表情で俺を見つめる希和。

……かわいい。

「あ、無理して笑おうとせんでええで。希和に媚びられたいわけちゃうねんから。」
照れ隠しに希和の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
希和は少し赤くなった。

開幕5分前のブザーがなった。
「セルジュ、2階?」
静稀ちゃんの舞台をほぼ毎日観劇してるセルジュは、なるべく目立たない席を準備してもらうようにしているらしい。

「ああ。僕は基本、2階。目立ちたくないからね。」
セルジュは、少し屈んで希和にほほ笑みかけた。

「希和子ちゃん、義人に毒されず、素敵なお姫様になるんだよ。」
そして希和の右手を取り、その小さな手の甲に口づけた!

おい!
何しとんねん!こらっ!
それに、希和っ!
真っ赤になってるっ!!!

「セルジュ!浮気してっと静稀ちゃんに言いつけるぞ!希和も~!あかんて、こいつは!もう!何でそんな目ぇしてるねん。」

俺は、シッシッ!とセルジュにあっちに行けとゼスチャーして、希和の両肩をがっちり持って、セルジュから強引に離した。

確信犯のセルジュはおかしそうに笑いながら、二階へと上がった。

……くそ~~~。

俺もしたことないのに……先、越された……くそ~~~~、くそ~~~、くそ~~~~~~~~。
< 147 / 343 >

この作品をシェア

pagetop