夢が醒めなくて
やれやれ。
今を盛りと咲き誇るしだれ桜を見上げてると、父の秘書の原さんが近づいてきた。
「どなたかにご挨拶ですか?」
そう尋ねると、原さんは俺の耳元で囁いた。
「猊下のお越しは叶いませんでしたが、坂巻のお裏方さまがお越しくださいました。」
お裏方さま?
それって……
「お父さんの仮説でいくと、希和の……」
原さんはさらに小声で説明してくれた。
「希和子さんのお母様のご実家の本山を継がれたご養子の奥さまですが……お母様の母方の従妹でもある……かもしれないかたです。」
希和の従叔母ということか。
あまり血は濃くないな。
確か、同じ宗派の大きな有名寺院のお嬢さまだったっけな。
「どこ?」
お裏方さまは毛氈を敷いた床几に座って、野点の茶を召し上がってらした。
淡い朱鷺色の色留袖の、地味な雰囲気の女性だった。
大寺院の奥さまって、もっと派手なイメージなんだけど。
声をかけるかどうか躊躇っているうちに、お裏方さまは席を立ってお帰りになった。
後ろ姿が凜としているのに柔らかかった。
翌日の放課後、いそいそと希和を迎えに行った。
塀のない見晴らしのいい敷地を車の中から眺めて待つ。
……双眼鏡が必要だな。
本気でそんなことを考えてると、希和っぽい子が見えた気がした。
いや、希和だ。
今朝の服装を思い出して確信すると、車を降りて待ち構えた。
女生徒が俺に反応しだし、希和も騒ぎに気づいた。
希和~……と声をかけようとしたら、見るからに嫌な顔をされた。
ショックだけど、もう慣れた。
俺は笑顔をキープして、希和に近づいた。
「自分で帰れるのに。」
と不満そうな希和に、
「うん。でも、ついでやし。」
と、何の用事もないくせにわざわざ迎えに来たことを隠す。
集まった子達に会釈して、希和を車に乗るように促した。
不意に希和の足が止まった。
希和?
視線が俺を素通りする。
振り返ったけど、グラウンドがあるだけで何もないぞ。
……いや、ないことはないか。
いくつかのクラブが活動しているな。
陸上部、野球部、サッカー部……え?
希和?
誰を見てる?
ドキドキする。
あり得ないぐらい、俺は焦っていた。
「帰らないの?」
何事もなかったかのように、希和が俺に促した。
……いや、何事もなかったのか?
俺の気のせい。
そう思いたいのだが……俺は、直観していた。
希和が、男を見ていたことを。
誰だ!?
今を盛りと咲き誇るしだれ桜を見上げてると、父の秘書の原さんが近づいてきた。
「どなたかにご挨拶ですか?」
そう尋ねると、原さんは俺の耳元で囁いた。
「猊下のお越しは叶いませんでしたが、坂巻のお裏方さまがお越しくださいました。」
お裏方さま?
それって……
「お父さんの仮説でいくと、希和の……」
原さんはさらに小声で説明してくれた。
「希和子さんのお母様のご実家の本山を継がれたご養子の奥さまですが……お母様の母方の従妹でもある……かもしれないかたです。」
希和の従叔母ということか。
あまり血は濃くないな。
確か、同じ宗派の大きな有名寺院のお嬢さまだったっけな。
「どこ?」
お裏方さまは毛氈を敷いた床几に座って、野点の茶を召し上がってらした。
淡い朱鷺色の色留袖の、地味な雰囲気の女性だった。
大寺院の奥さまって、もっと派手なイメージなんだけど。
声をかけるかどうか躊躇っているうちに、お裏方さまは席を立ってお帰りになった。
後ろ姿が凜としているのに柔らかかった。
翌日の放課後、いそいそと希和を迎えに行った。
塀のない見晴らしのいい敷地を車の中から眺めて待つ。
……双眼鏡が必要だな。
本気でそんなことを考えてると、希和っぽい子が見えた気がした。
いや、希和だ。
今朝の服装を思い出して確信すると、車を降りて待ち構えた。
女生徒が俺に反応しだし、希和も騒ぎに気づいた。
希和~……と声をかけようとしたら、見るからに嫌な顔をされた。
ショックだけど、もう慣れた。
俺は笑顔をキープして、希和に近づいた。
「自分で帰れるのに。」
と不満そうな希和に、
「うん。でも、ついでやし。」
と、何の用事もないくせにわざわざ迎えに来たことを隠す。
集まった子達に会釈して、希和を車に乗るように促した。
不意に希和の足が止まった。
希和?
視線が俺を素通りする。
振り返ったけど、グラウンドがあるだけで何もないぞ。
……いや、ないことはないか。
いくつかのクラブが活動しているな。
陸上部、野球部、サッカー部……え?
希和?
誰を見てる?
ドキドキする。
あり得ないぐらい、俺は焦っていた。
「帰らないの?」
何事もなかったかのように、希和が俺に促した。
……いや、何事もなかったのか?
俺の気のせい。
そう思いたいのだが……俺は、直観していた。
希和が、男を見ていたことを。
誰だ!?