夢が醒めなくて
あおいちゃんと一緒にキャンパスへ戻ると、なんとなくいつもより注目されてるのを感じた。

「よぉ。どこの美男美女かと思ったら。」
おかしそうに小門が声をかけてきた。

「あ~、頼之さん。お兄さんにランチおごってもろた~。」
あおいちゃんが満面の笑みでぴょんぴょん飛び跳ねるように俺から離れて小門にくっついた。

……かわいいじゃないか。
そういや、あおいちゃんも妹キャラやったな。
小門には、こんなにもベタベタに甘えるのか。
ちょっと……いや、かなりうらやましくなった。

あおいちゃんと別れて小門とゼミに向かう。
年度が変わってメンバーが一新したゼミはなかなか新鮮だ。
大薗まゆ先輩達は卒業し、新3回生が加わり、4回生も少し動いたようだ。

「竹原くん。早速新入生と仲良くなったの?」
どこかで見かけたのか、浦川 花実(かさね)嬢が笑いを含んだ声でそう話しかけてきた。

色々あったけど、浦川嬢はボランティアにも参加してた医学部の男と付き合い始めた。
俺とも普通に会話できる心境に落ち着いたらしく、以前のように言葉を交わすようになった。

「見てたん?声かけてくれたらいいのに。美人やろ?」
俺がそう言うと、浦川嬢は苦笑いを浮かべ、小門はこっそりデレていた。
「ノーメークであれは、くやしいけど、ほんまもんの美女ね。モデルか何か?」

「いや。あれ、小門の奥さん。な。」
何となくざわついていた教室がシーンとした。
「ああ。」
小門の返事が響くと、教室に女子の悲鳴が轟きわたった。

自覚はなかったようだが、小門は幾人もの女子から想いを寄せられていた。
そりゃそうだよな。
小門はクールだけど優秀でイケメン眼鏡男子で、連珠で世界一になったほどの頭脳の持ち主だ。
女子がほっとくわけない。

現に、3回生でこのゼミを志望した女子にも小門目当ての子がいたようだ。
……まあ、俺もターゲットにされてるけど……浦川嬢のこともあるし、手を出すのは慎重に見極めてからにしよう、うん。

その日のゼミは、女子がお通夜状態でなかなかシュールだった。
ちょっと意外なのは、小門がゼミ長に立候補したこと。

「スタッフは、竹原、頼んでいいか?」
快く了承したけれど、
「意外やったわ。何で?」

希和のお迎えは断念して、ゼミの名簿と飲み会の案内を作りながら小門に尋ねた。
「何でって……大学院に残るつもりやから。竹原も残ると思っとったから誘ってんけど、違った?」

違わない。
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