夢が醒めなくて
意味がわかんない!
何でボートなの!?

そんなの、ぜんぜん罰ゲームでも何でもないじゃないか。
普通に誘われても拒否しないのに。
……私、そんなにもワガママと思われてるのかな。

動揺してたら、置き石4つでもあっさり負けてしまった。
「ほな、あしたの午後な。水辺、気持ちいいやろなー。本持ってって、読んでてもいいで?」
義人氏はそう言ったけど、せっかくはじめてボートに乗せてもらえるのに読書なんてもったいない!
ものすごーく楽しみだった。


「私も漕ぎたい。」
池の中央ぐらいまで来たときに、義人氏にそう訴えた。

「そやな。一緒に漕ぐか?」
義人氏はそう言ったけれど……ちょっと躊躇った。

一緒にって、どうやって?
義人氏の横にくっついて座って、片方のオールを受け持つの?
それとも義人氏の前にくっついて座って、一緒に2本のオールを持つの?
……どっちもかなり恥ずかしい気がした。

「独りで漕いでみたい。いい?」
そう聞くと、義人氏は頷いてオールを少し引き揚げてから両手をはなした。
「ゆっくりこっちおいで。姿勢低くな。」
義人に手招きされて、私はすっくと立ち上がった。

「危ない。座って。中腰で。」
確かに、立っただけで、グラッとボートが傾いた。

「キャッ!!」
驚いて私は立ったまんまバランスを崩し、ますますボートは激しく揺れた。

転覆する!

「希和!」
義人氏が下からぐいっと手を引き、私は立ってられずに倒れた。
びっくりしたけど、ガッチリと義人氏が自分の体と腕で抱き留めてくれた。

どこも痛くないし、ボートの揺れもすぐにおさまった。
なのに、私は動けなくなった。
ガタガタと身体が震えた。

「大丈夫や。怖かったな。もう大丈夫やから。」
義人氏はそう言って、私が落ち着くまでそのままでいてくれた。

震えがおさまってくると、今度は涙が出てきた。
「ごめんなさい。」
自分でも驚くほど、しおらしかった。

「何も。むしろ役得。気持ちいいなー。」
義人氏はそう言って、ハンカチで私の目元を覆った。
「まぶしいやろ。このまま、昼寝しよ。」

このままって……。
義人氏の身体をまるで半分敷き布団、半分枕のように寝転がってる。

さすがに恥ずかしい。
くっつきすぎだよ。
ドキドキする鼓動まで義人氏に伝わるんじゃないだろうか。

……ドキドキ……ドキドキ……

あれ?

私の音だけじゃない。

義人氏の鼓動が聞こえる。
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