夢が醒めなくて
何だか、ホッとした。

不協和音のように、ずれたリズムを刻んでいた2つの鼓動なのに、そのうちゆっくりゆっくり同じ速度で共鳴した。

いつの間にか、呼吸のタイミングも……一緒。

不思議。
……でも、何か……安心。

そのまま私は本当に眠ってしまった。
ゆらゆらと心地いいボートの揺れと、水面を渡る爽やかな風、だいぶ西に傾いた太陽……全てが眠りに誘(いざな)った。

「希和。ほんまに寝たんか……」
義人氏の声に、ふいっと意識を呼び戻された。
でも、気持ちよくて、眠くて……私は声を出すことも動くこともできなかった。

「よぉ寝られるわ。……イテテ。風邪引かんときや。」
義人氏の身体が少しずれて、私はしっかりと枕を得たようだ……義人氏の太ももかな?

そして、ふわりと私の身体を覆ったものは、たぶん義人氏のジャケット。
……掛け布団きたー。
気持ちいい……。

義人氏の手が髪を撫でてる……気がする。
お母さんが髪を梳いてくれるのと同じ、優しい指。
うれしいな。

「……おっと。」
うなじには触れないように、義人氏が気遣ってくれてるのがわかった。

私のトラウマを知って、刺激しないように、傷つけないように、尊重してくれている。
……泣きそう。

お父さんにも、お母さんにも、お姉さんにも……義人氏にも、過分に愛情をもらってる。
幸せって、こういうことなんだろうな。
しみじみと、思う。

「希和が来てくれて、ほんまによかったわ。……お父さんも、お母さんも……希和のおかげで夫婦関係を再構築して……幸せそうや。ありがとうな。」

……これは都合のいい夢だろうか。
幸せをいっぱいもらって感謝してるのは私。
なのに、義人氏の言葉だと、まるで私の存在が竹原家に幸せをもたらしたかのよう。
過大評価しすぎ。
困る。
……はずなのに……うれしい。

「あ。カワセミ……」
え!?
カワセミ!?

「どこ!?」
義人氏のつぶやきに、ガバッと起きた。

すると、義人氏のすぐ前、私の右側のボートの縁から、青い美しい小鳥がスイーッと飛び立った。
「ああああああ!」

行っちゃった。
カワセミ。

「……おはよう。」
義人氏が笑いをかみ殺してそう声をかけた。
……寝てるふりしてたと思われた!?

いや、本当に寝てたもん。
義人氏の声が何となく聞こえてきただけやもん。

言い訳したいけど、気恥ずかしくて何も言えなかった。

「カワセミ、好きなん?」
「……うん。好き……」
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