夢が醒めなくて
先生は先輩との対戦をあっさり勝つと、解説どころか碁石を片付けることすらせず、私の前に立った。
そして、私と対局してる生徒の石を勝手に取って、置いた。
ポカーンとしてる本来の対局相手をよそ目に、対局が進み、私が勝った。

すると、先生は対局相手を追い立てて、うれしそうに私の前に座った。
……まるで子供のような独占欲に、私は周囲の先輩がたに助けを求めた。
けど、先輩がたも困惑し、言葉が出ないようだった。

結局その日、私はずーっと先生につきまとわれた。
ろくな解説もしてくれず、正直、迷惑だし、怖かった。


部活が終わると、私は涙目で部長の後ろに、先生から隠れるように立って、最後の挨拶をした。
先生は不満そうに視線をさまよわせ、最後に私を見つけるとニコニコと笑った。
慌てて部長の陰に隠れた。

先生が帰らはるのを待って、部長に聞いた。
「私、何か、変なことしてしまったんでしょうか。」

部長や先輩は首を傾げていた。
「……色惚(いろぼ)けしはった?」
「老いらくの恋、ってやつ?」

笑えないし!
泣きそう。
えー……私、これからどうしたらいいの?



お迎えに来てくれた義人氏から、到着メールが届いた。
ホッとして私は部室を出た。
こういう場合どうすればいいのか、たぶん義人氏ならうまい対処法を教えてくれるだろう。
私はいつもより足早に廊下を歩いた。

下駄箱で靴を履き替えてると、不意に背後からガバッと抱きつかれた!

「ひっ!」
と、声にならない声をあげると、すごい力で口をおさえられた。

いやっ!
苦しいっ!

恐怖で心臓がバクバクしてる。
もがいて逃げたいのに身体がうまく動かない。

ガッチリと抱え込まれて、首筋に生暖かい吐息とおぞましい感触を受けた。
加齢臭!
や~~~~っ!

ほとんど思い出すことのなくなっていたトラウマが蘇る。

涙も声も呼吸すら凍りつく。

助けて!助けて!助けて!

脚に力が全く入らず、私はその場で崩れ落ちそうなのに、背後からの力は緩まらず、ほとんど引きずられていた。

「何やってんねん!」
男子の声。

私は力を振り絞ってジタバタともがき、助けて!と叫んだ。
「んー!」
という唸り声にしかならなかったけど、私が嫌がって抵抗してることは伝わったと思う。

鈍い衝撃がドン!と、背中越しに伝わってきた。

思わず咳き込んだ。

バンバンとけっこう大きな音と衝撃が続いた後、ようやく私は解放された。 
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