夢が醒めなくて
飄々としてる坂巻くんを見てると、何となく心が落ち着いてきた気がする。

震える手で、何とか義人氏の番号の発信ボタンに触れることができた。
『希和?まだかかるんか?』

義人氏の声に、どっと堰を切ったかのように私の涙と声が出た。

「来て!早く来て!下駄箱んとこ!助けて!」
『すぐ行くっ!』

電話の向こうでバンッと車のドアが閉まる音と、荒い息遣いがする。
義人氏が走って来てくれる。

涙と嗚咽が止まらない。
見かねた坂巻くんが、持っていた黒っぽいハンカチで私の涙と鼻水を拭ってくれた。
……鼻水は、さすがに恥ずかしいけど、それどころじゃなかったし。
私は遠慮なく鼻をかませてもらい、泣きじゃくった。

「希和っ!」
義人氏がすごいスピードで近づいてくる。

ああ、このヒト、足も速いんや。
ほんと、ずるい……。

そう思ったら、緊張の糸が切れたのか。
私の意識はそこで、ふつっと途絶えた。

義人氏の腕と声が心地よくて、こんな時なのに自分がニマニマと笑ってるような気がしたならなかった。



気がつくと、私は保健室のベッドに寝ていた。
「希和。大丈夫や。もう、心配せんでええから。」

目を開けた私にそう声をかけるヒト……義人氏だ。
何でそんな目で見てるの?

わけがわからず、ぼーっとしていたけれど、パチッと風船がはじけるように現実に引き戻された。
「あ!……嫌や!怖い!助けて……助けて……」
私は無我夢中で起き上がると義人氏にしがみついた。

ぶるぶると震える身体を義人氏は抱きしめてくれた。
「大丈夫。もう大丈夫やから。何もない。怖かったな……でも、何もないから。心配せんでええから。」
義人氏は何度も何度もそう言って、泣きじゃくる私の背中を根気よく撫でて落ち着かせてくれた。

……前にもこんなことあった……。
去年の夏、義人氏に泣きついたことを思い出した。

そして、過去のトラウマも……。

「何でこんな……私ばっかり、なんでこんな……何があかんの?何でなん?」

そんなに隙だらけなんだろうか。
情けない。
こんな自分が惨めで情けなくて、死んでしまいたい。

ついそう嘆くと、イイ声が背後から響いた。
「いや。あかんのじゃなくて、竹原さんが可愛いからやと思うで?」

私を抱く義人氏の手に力がこもり、小さな舌打ちが聞こえた気がした。

驚いて顔を上げると、義人氏の苦笑。

振り返ると、坂巻くんが端然と座っていた。
< 182 / 343 >

この作品をシェア

pagetop