夢が醒めなくて
……あー、いたんだ。
てか、私、坂巻くんに助けてもらったんだ。

「傘、壊さはってん。弁償したげて?」
思わず、義人氏の両腕を掴んだままそう言った。

義人氏はちょっと困ったように笑った。
「希和。順番が違うやろ。坂巻くんが助けてくれてんろ?ちゃんと、お礼、言い。武器にした傘の話は後でいいから。」

「あ。うん。坂巻くん、ありがとう。傘も。ハンカチも。」
そう言って頭を下げると、坂巻くんは肩をすくめた。
「いや。俺は、やり過ぎて反省中。礼を言われると、却ってつらい。」
……やっぱり変なヒトかもしれない。

「囲碁の先生は、ご家族に迎えに来てもらったわ。明日病院に行って認知症の検査を受けてもらう。示談で済ますけど、希和には二度と近づかんように、部活は辞めてもらうし、外出もご家族に管理を求めるつもりや。……警察沙汰にする必要は、ないな?」
義人氏にそう聞かれて、私はうなずいた。

「とりあえず残ってはったサッカー部の顧問と相談したけど、囲碁部の顧問の先生の管理問題にもなりかねへんし、あまり事を荒立てへんほうがいいと思う。」

「……囲碁部のヒトら、みんな、知ってる……先生が今日、変やったこと。」
そう言ったら、義人氏は眉をひそめた。

「そうか。まあでも、ほな、証人がまた増えたってことで。気にせんとき。」

……無理だ。
私はぷるぷると首を横に振って、また泣いた。

「恥ずかしい……こんな……無理……」
「希和。大丈夫やから。何もないねんから。」
義人氏はそう言って、しがみつく私をあやしてくれた。


「部活なんか別に辞めたっていいと思うで。……でも、竹原さん、普通にモテてるから気はつけたほうがいいと思うわ。ちょうどいいし、春秋(はるあき)をボディーガード代わりに連れて歩いたら?」
坂巻くんはそう言い置いて帰って行った。

「……ボディガードになるのかな……朝秀くんで。」
正直、頼りない気がする。

「まあ、強いんはさっきの坂巻くんのほうが強いやろうけど、彼は有段者らしいからほんまは喧嘩できひんねんて。……それもあって警察沙汰にしたくないねんけど。」
義人氏の手にすがりつくように掴まって歩いて、やっと学校を出た。

「ところで、何で保健室の鍵なんか持ってるん?」
とっくに保健室の先生は帰ってらして施錠されてたのに、なぜか義人氏は保健室に私を運ぶことができたようだ。

「やー。まさか3年以上たっても使えるとは思わんかったわ。」
義人氏は理由を説明する気はないらしく、すっとぼけていた。
……怪しすぎる。
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