夢が醒めなくて
その夜、義人氏は遅くまで勉強を見てくれた。
囲碁は、しなかった。
「坂巻くんの言う通り、囲碁部は辞めていいねんで。やりたきゃ俺がいつでも相手するし、他の人と対戦したいなら碁会所に連れてったる。……強くなりたいんやったら、俺の先生を紹介してもいいし。」
「先生!?やっぱり、誰かに教わってたん!?ずるい~~~!」
……当分、囲碁はいいわ……って思ってたのに、ついそう地団駄踏んでしまった。
義人氏はちょっと笑った。
「ほな、逢うてみるか?俺の先生。……ゆーとくけど、厳しいで。棋譜を書けるんなんか、最低条件やで?」
う……。
私、そこまで記憶力ない。
「ほな、見学してから決めてもいい?」
「了解。あ、人見知りらしいから、クールに接しはっても気にせんときや。」
義人氏はそう言って、私に牛乳をくれた。
「何で牛乳?しかも常温……」
「たぶん神経は興奮したまんまやろし、本当は軽い睡眠剤でも飲ませたいところやけどな。気休めにミルク。これ飲んでゆっくりおやすみ。」
……前にサクランボのジュースくれへんかったっけ?
「酸っぱいサクランボじゃないの?」
そう尋ねると、義人氏は肩をすくめた。
「今日言うて今日は、無理やわ。常備してるわけちゃうし。……てか、もう必要ないと思ってたのにな。かわいそうに。怖い想いしてしもたなぁ。」
義人氏の瞳に慈愛の色が満ち、私の肩に手が置かれた。
私はその手に頬を寄せて、きゅっと口をへの字に結んだ。
……泣きそう。
「希和が、どこも怪我せんでよかった。」
義人氏の言葉に、手の熱に、やっぱりまた泣いてしまった。
眠るまで、そばにいて欲しい。
さすがにそれは言えなかったけど、義人氏はそのつもりだったのかもしれない。
小さなランプで読書をし続てる義人氏を、ベッドから何度も見てるうちに眠っていた。
翌日、義人氏は学校まで送ってくれて
「大丈夫か?休んでもいいんやで?」
と、何度も言ってくれた。
その都度、私は苦笑した。
「過保護やわ。大丈夫。がんばる。行ってきます。」
「一緒に行こうか?担任の先生に報告しようか?」
「……コトを大きくせぇへんって、昨日言うてたもん。お父さんとお母さんにも、このまま何も言わんといてな。」
私は真剣にそうお願いした。
こんなことぐらいでいつまでもクヨクヨしていたくない。
強くならなきゃ。
よっぽど心配らしく、いつまでもドアの鍵を開けてくれない義人氏に手を振って、自分で鍵を開けてドアを開けた。
「いってきます!」
「いつでも電話してきぃや。」
笑顔でうなずいて、車から降りた。
大丈夫。
大丈夫。
自分に言い聞かせながら、校舎へ向かった。
囲碁は、しなかった。
「坂巻くんの言う通り、囲碁部は辞めていいねんで。やりたきゃ俺がいつでも相手するし、他の人と対戦したいなら碁会所に連れてったる。……強くなりたいんやったら、俺の先生を紹介してもいいし。」
「先生!?やっぱり、誰かに教わってたん!?ずるい~~~!」
……当分、囲碁はいいわ……って思ってたのに、ついそう地団駄踏んでしまった。
義人氏はちょっと笑った。
「ほな、逢うてみるか?俺の先生。……ゆーとくけど、厳しいで。棋譜を書けるんなんか、最低条件やで?」
う……。
私、そこまで記憶力ない。
「ほな、見学してから決めてもいい?」
「了解。あ、人見知りらしいから、クールに接しはっても気にせんときや。」
義人氏はそう言って、私に牛乳をくれた。
「何で牛乳?しかも常温……」
「たぶん神経は興奮したまんまやろし、本当は軽い睡眠剤でも飲ませたいところやけどな。気休めにミルク。これ飲んでゆっくりおやすみ。」
……前にサクランボのジュースくれへんかったっけ?
「酸っぱいサクランボじゃないの?」
そう尋ねると、義人氏は肩をすくめた。
「今日言うて今日は、無理やわ。常備してるわけちゃうし。……てか、もう必要ないと思ってたのにな。かわいそうに。怖い想いしてしもたなぁ。」
義人氏の瞳に慈愛の色が満ち、私の肩に手が置かれた。
私はその手に頬を寄せて、きゅっと口をへの字に結んだ。
……泣きそう。
「希和が、どこも怪我せんでよかった。」
義人氏の言葉に、手の熱に、やっぱりまた泣いてしまった。
眠るまで、そばにいて欲しい。
さすがにそれは言えなかったけど、義人氏はそのつもりだったのかもしれない。
小さなランプで読書をし続てる義人氏を、ベッドから何度も見てるうちに眠っていた。
翌日、義人氏は学校まで送ってくれて
「大丈夫か?休んでもいいんやで?」
と、何度も言ってくれた。
その都度、私は苦笑した。
「過保護やわ。大丈夫。がんばる。行ってきます。」
「一緒に行こうか?担任の先生に報告しようか?」
「……コトを大きくせぇへんって、昨日言うてたもん。お父さんとお母さんにも、このまま何も言わんといてな。」
私は真剣にそうお願いした。
こんなことぐらいでいつまでもクヨクヨしていたくない。
強くならなきゃ。
よっぽど心配らしく、いつまでもドアの鍵を開けてくれない義人氏に手を振って、自分で鍵を開けてドアを開けた。
「いってきます!」
「いつでも電話してきぃや。」
笑顔でうなずいて、車から降りた。
大丈夫。
大丈夫。
自分に言い聞かせながら、校舎へ向かった。