夢が醒めなくて
中間テストの後、私は自分に変なあだ名がついていることを知った。

「姫?何で?どこが?」

私が「姫」って?
嫌味じゃないよね?

「……まあ……姫なんちゃう?」
坂巻くんが苦笑いした。

「どこが?」

「うん。姫。俺と孝義(たかよし)が騎士(ナイト)で、竹原先輩がキング。あれ?希和子ちゃん、クイーン?」
朝秀くんはそう言って首を傾げた。

「いや。春秋(はるあき)は馬でも、俺は僧侶(ビショップ)やろ。」
「なぁに?チェス?どんどん、ずれてる。私、姫でもクイーンでもないし。……てか、姫って日本の姫かと思った。」
「日本のほうが孝義は、しっくりするわ。僧兵やな。弁慶。少林寺。ジェット・リー。」
「いや、それ、中国やろ。……まあ、確かに先祖は織田信長とガチで戦ったけどな。」

3人で話してると、会話が脱線して発展して、最後は笑いこける……そんなことが多かった。


「まあ、冗談はおいといて、あの竹原先輩が、他の女子の秋波に目もくれず、希和子ちゃんを大事に大事にしてはるやろ?俺と孝義が近づく男を蹴散らしてるやろ?希和子ちゃん自身も浮き世離れしてるやろ?気取ってるとかお高くとまってるって言うんじゃなくて、俗世間を知らないお姫様に見えるのと……」

朝秀くんはそこまで行って、ちょっとためらってから、続けた。

「……ほんまにどこかの御落胤じゃないか、って噂されてる。竹原先輩のお父さんって非情で合理的で有名みたいで、そうじゃなきゃわざわざ養子縁組までしひんやろ、って。……これは生徒の親達の見解。」

何?それ。
驚いたけど、坂巻くんも黙って普通にしてるところを見てると、初耳じゃないらしい。
そんなこと言われてるんや。

「あほらし。……ただの施設育ちの孤児やってば。」
てか、お父さん、そんなに評判悪いんだ。
優しいのに……。

「好き勝手イロイロ言われてるで。政治家の隠し子とか、大店(おおだな)の婿養子が祇園の芸妓に産ませたとか、芸能人の結婚前の恋人が産んだとか……」

朝秀くんの挙げる例が、イチイチ突き刺さった。
親の社会的地位は全然違うけれど、施設にはそういう立場の子も多かったから。

「責任もとれへんくせに、なんで産むんやろう。捨てられたほうは、迷惑やわ。」
私の言葉は重かったらしい。

「南無阿弥陀仏。」
坂巻くんが目を閉じて、低く小声でつぶやいた。
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