夢が醒めなくて
希和が変わった……と、思う。

入学した中学校でも、小学生の時と同じように浮いてしまわないか、そればかりを心配していた。

だが、新しくできたお友達のおかげで、クラスにも馴染み、素の希和が出せているようだ。
……そのお友達が男ということが最初は気に入らなかったが……何となく憎めない太鼓持ちのような奴なので黙認することにした。

そしてもう一人、まるで希和のボディーガードのような男友達ができた。
……こいつのほうが、要注意人物だ。
たぶん希和の親戚にあたる、ちょっと変わった男。

くやしいけど、中学校に立ち入れない俺は、彼らが希和を守ってくれることに感謝しなければいけない。
ちくしょー。
俺だって、希和と授業受けたり、昼休みに一緒に弁当食ったりしたいんだー!


「お待たせ!」
希和が腰巾着の朝秀くんを連れて、俺の車にやってきた。

笑顔だ。
そう、これこそが最大の変化だ。
ゴールデンウイークぐらいからだろうか。
希和が自然な笑顔を見せるようになった。

俺はこの笑顔を見たくて見たくて……ずっと見たかったから、希和がよく笑ってくれてうれしいはずなのに……あろうことか、苛つくことも多い。
希和の笑顔がかわいすぎて、他のヒト、特に男に見せたくないのだ。

独占したい。
今日もへらへらくっついてる朝秀くんに、嫉妬してしまった。

「竹原せんぱーい、こんにちはー。」
「やあ。2人とも、中間テストどやった?」

こんなことを挨拶代わりに聞いてしまうなんて、俺も年をとったもんだ。
でも、のぼせた学生に冷や水をぶっかけるのに、これほど効果的な言葉はない。

希和は
「たぶん……大丈夫……やと思う……。」
と弱気に口ごもり、朝秀くんは
「済んだことです!聞かんとってください!あっはっはー!」
と、開き直った。

朝秀くんを少し南下したバス停でおろし、希和と2人で目指すのは、小門(こかど)一家の住まい。
「手土産のケーキは、希和の好きなパティシエのとこで買うてきたわ。」
「えー?それって、私たちも一緒にいただくの前提で買うたん?」
だって、希和の喜ぶ顔が見たいんやもん。

俺はすまして、答えた。
「囲碁は、頭使うから、糖分の補給せんとな。」


小門の家、正確には天花寺家の京都別邸は天神さん西隣にあった。
大きな門のすぐ脇の小さな扉の呼び鈴を押してから中に入る。

「すごい……お庭……建物……すごいー。」
いちいち興奮して感心してる希和に苦笑する。

希和は、小門の奥さんのあおいちゃんが由未の親友だということも、その縁で恭匡(やすまさ)さんから家を借りてることも知らない。
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