夢が醒めなくて
「よぉ。来たか。いらっしゃい。」
中玄関から、小門が顔を出した。

「こんちはー。これ、後でみんなで食べよー思て買うてきた。」
そう言ってケーキの箱を小門に手渡した。

「悪いね、いつも。……希和子ちゃん?はじめまして。小門です。」
小門は希和に会釈してそう挨拶した。

「はい!希和子です!はじめまして!今日は図々しく押しかけて、すみません!ご指導、よろしくお願いします!」
希和は、めちゃめちゃ緊張していた。

小門が俺の囲碁の師だと思ったらしい。
まあ、確かに見るからに小門は頭良さそうだし、実際に対局したらこてんぱんにやられそうだけど……。

小門は、希和と俺を見比べて苦笑した。
「いや。俺じゃないで?俺は、竹原に教えられるほど上手くないから。」

「え……」
希和が絶句してると、奥の本玄関から光くんが飛び出してきた。

「わっ!かわいいっ!天使!」
希和の感嘆に、いや、希和も天使だよー、とか思ってしまう自分の阿呆さ加減を封印して、光くんに挨拶した。

「光くん。こんにちは。」
光くんは途中でピタッと足を止めて、じーっと希和を見た。

ね、値踏みしてる……。
そういや、珍しく俺には懐いてくれたけど、光くんは超人見知りって言ってたっけ。
この空気は……まずいかも。

「光。走ったら危ないゆーとーやんか!もう!……あー、いらっしゃい。へー、かわいぃ子ぉ。希和子ちゃん?」
あおいちゃんが遅れて出てきた。

光くんは、パッと身を翻して、あおいちゃんの足にしがみついた。
……これは……人見知りポーズか!?

「はい!希和子です!はじめまして!ご指導、お願いします!」
希和は、今度はあおいちゃんが先生だと思ったようだ。

まあ、そりゃそうか。
まさか幼稚園児に教わってるとは思わないよな。

「あーーーー……」
あおいちゃんも察したらしく、光くんの背中をぽんぽんと優しく叩いた。

光くんは、希和から隠れるように、あおいちゃんの背後に回った。
ダメだ。
完全に人見知りされたらしい。

「希和。あおいちゃんも間違いなく強い思うけど、違うんや。」
そう言って、俺はあおいちゃんのそぱまで行って、その足元にしゃがみこみ、光くんに話し掛けた。

「光くん。ごめんね。また日を改めたほうがいい?」
「そんな、せっかく来とーのに、こら!光!普通にしとき、普通に。……ごめんねー。光がお兄さんと対局しとー間、私と頼之さんでよければ希和子ちゃんのお相手しよーか?」

珍しく、あおいちゃんが気を遣ってくれてる……。

由未から希和のことを聞いてるのかな。
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