夢が醒めなくて
「え?……え?……あの……囲碁の先生って……光くん?……なんですか?」
驚いてる希和にうなずいて見せる。
「うん、光くん。ね?」
あおいちゃんの足から、ひょこっと顔を出した光くんにそう相づちを求めた。
光くんはそれには答えず、パッと出てくると、黙って俺の手をグイグイ引っ張った。
どうやら茶室に連れて行こうとしているらしい。
「わかったわかった。ほな、あおいちゃん、希和のこと、頼むわ。教えたってー。」
……なるほど、確かに光くんは人見知りなんだな、ということを改めて理解した。
カタンと、床の間の横から音がした。
気になるけど、光くんとの対局の時には、余計なことを考える余裕なんかない。
集中!
考えろ!
全ての可能性を一瞬でたどり、最良の一手を繰り出す。
今まで鍛えてきた脳細胞をフル稼働しても、まだ足りない。
実におもしろいよ、囲碁。
「見てる。」
ボソッと光くんがつぶやいた。
「んー?あー、それな。気が散る?ごめんな。」
光くんは黙ったけれど、やっぱり気になるらしい。
床の間の書院窓の障子を少し開けて、じーっと希和が覗いていた。
明らかに集中力を欠いた光くんに、俺は初めて逆転の一手を打てた……と、思う。
「あ~~~~~~~。」
光くんはそう嘆いて、盤と俺を何度も見比べた。
「……どう?これで。」
ドキドキしてそう聞いた。
「僕の疑問手に対して最善手。」
そう言って、光くんは足を投げ出して座り直すと、ちょっとふくれて言った。
「ここで僕が投了!」
ぶぶっ……と、希和が笑った。
俺は敢えて無視して、光くんに聞いた。
「ほんまに?……例えばここに置いても?」
光くんは、チラチラと希和を気にしながらも、俺の質問に答えてくれてたけど、3手ほどで音(ね)を上げた。
「あーちゃん、のど乾いたー。」
希和の背後から様子を覗いていたらしく、あおいちゃんが肩をすくめて出てきた。
「はいはい。ほな、お持たせのケーキ、いただきましょうか。」
光くんはパタパタと走って、あおいちゃんの足にまとわりついて台所へ行った。
「……これで、どうして投了しはったの?」
恐る恐る希和が茶室に入ってきた。
「えーと、俺のこの石があることで、こっちもこっちも睨み利いてるのは、わかる?」
希和の眉間にしわが寄る。
「わかるような、わかんないような……」
唸る希和がかわいくて、ずっと見ていたくて……俺は懇切丁寧に説明してく。
「竹原。お茶冷める。」
小門がそう誘いに来て、俺を見て、うっすら笑った。
希和を先に行かせてから、小門に小声で聞いた。
「……なに?その薄笑い。」
「何って……自覚ないんか?まあ、竹原は誰に対しても親切で優しいけど、あの子は特別なんやな。」
小門はニヤニヤ笑ってる。
自覚……ないことはない。
たぶん、俺はわかりやすく、デレてたんだろうよ
仕方ない。
マジでかわいいんだから。
「特別や。」
開き直ってそう言ったら、自分でもびっくりするほど心音が高鳴った。
驚いてる希和にうなずいて見せる。
「うん、光くん。ね?」
あおいちゃんの足から、ひょこっと顔を出した光くんにそう相づちを求めた。
光くんはそれには答えず、パッと出てくると、黙って俺の手をグイグイ引っ張った。
どうやら茶室に連れて行こうとしているらしい。
「わかったわかった。ほな、あおいちゃん、希和のこと、頼むわ。教えたってー。」
……なるほど、確かに光くんは人見知りなんだな、ということを改めて理解した。
カタンと、床の間の横から音がした。
気になるけど、光くんとの対局の時には、余計なことを考える余裕なんかない。
集中!
考えろ!
全ての可能性を一瞬でたどり、最良の一手を繰り出す。
今まで鍛えてきた脳細胞をフル稼働しても、まだ足りない。
実におもしろいよ、囲碁。
「見てる。」
ボソッと光くんがつぶやいた。
「んー?あー、それな。気が散る?ごめんな。」
光くんは黙ったけれど、やっぱり気になるらしい。
床の間の書院窓の障子を少し開けて、じーっと希和が覗いていた。
明らかに集中力を欠いた光くんに、俺は初めて逆転の一手を打てた……と、思う。
「あ~~~~~~~。」
光くんはそう嘆いて、盤と俺を何度も見比べた。
「……どう?これで。」
ドキドキしてそう聞いた。
「僕の疑問手に対して最善手。」
そう言って、光くんは足を投げ出して座り直すと、ちょっとふくれて言った。
「ここで僕が投了!」
ぶぶっ……と、希和が笑った。
俺は敢えて無視して、光くんに聞いた。
「ほんまに?……例えばここに置いても?」
光くんは、チラチラと希和を気にしながらも、俺の質問に答えてくれてたけど、3手ほどで音(ね)を上げた。
「あーちゃん、のど乾いたー。」
希和の背後から様子を覗いていたらしく、あおいちゃんが肩をすくめて出てきた。
「はいはい。ほな、お持たせのケーキ、いただきましょうか。」
光くんはパタパタと走って、あおいちゃんの足にまとわりついて台所へ行った。
「……これで、どうして投了しはったの?」
恐る恐る希和が茶室に入ってきた。
「えーと、俺のこの石があることで、こっちもこっちも睨み利いてるのは、わかる?」
希和の眉間にしわが寄る。
「わかるような、わかんないような……」
唸る希和がかわいくて、ずっと見ていたくて……俺は懇切丁寧に説明してく。
「竹原。お茶冷める。」
小門がそう誘いに来て、俺を見て、うっすら笑った。
希和を先に行かせてから、小門に小声で聞いた。
「……なに?その薄笑い。」
「何って……自覚ないんか?まあ、竹原は誰に対しても親切で優しいけど、あの子は特別なんやな。」
小門はニヤニヤ笑ってる。
自覚……ないことはない。
たぶん、俺はわかりやすく、デレてたんだろうよ
仕方ない。
マジでかわいいんだから。
「特別や。」
開き直ってそう言ったら、自分でもびっくりするほど心音が高鳴った。