夢が醒めなくて
夏休みが来たら希和をどこに連れて行こうか……あっちも行こう、こっちも行こう……と、俺はものすごく楽しみにしていた。
両親もまた、希和と一緒に過ごすための別荘の購入まで検討していた。

でも、希和は俺たちが思っていたよりも真面目な子だった。
一学期の希和の成績は学年3位と、実に立派なものだった。
なのに本人的には気に入らなかったらしい。

「入試でトップやったのに……朝秀くんと遊び過ぎた……」
そう言って、泣きそうな顔で通知簿を俺に渡した。

「まあ、トップ合格ゆーても、内部進学の子ぉらは勘定に入ってへんかったからなあ。3位ってすごいことやで?上等上等。」
そう言って誉めたけど、希和の目からポロッと涙がこぼれ落ちた。

「ほらー。希和子ちゃん。もー、泣かんと。竹原せんぱーい、希和子ちゃん、先輩はずっとトップやったからって落ち込んでしもて。俺なんか、下から数えたほうが早いのに。」
後部座席から朝秀くんがそう言うと、希和はキッと彼を睨んだ。

「朝秀くんは、テスト勉強全然してへんやん!せめて教科書読み直すぐらいしてよー!」
……朝秀くん……君、大物になるよ……たぶん。

「サッカー少年は?」
この暑いのに、くそまじめに弱小クラブでサッカーに励んでいる坂巻くんのことを尋ねると、希和がまた涙を浮かべた。

「……希和?」
なぜ、泣く?

「孝義は2番。希和子ちゃん、孝義は読書ばっかりしてて、あいつがテスト勉強してるの見たことなかったから、孝義に負けてることもショックやったらしくて……」
朝秀くんの説明に、苦笑した。

「そっか。坂巻くんは頭いいんやな。てか、希和ー。めっちゃ負けず嫌いやなあ。でも、他人(ひと)は他人(ひと)、やで。悔しかったら、二学期がんばったらいいやん。」

「がんばるもん。夏休みも勉強するもん。遊ばへんもん。」
希和はハンカチを握りしめて、そう宣言した。

やれやれ。
感情表現が豊かになったのはいいことだけど、ちょっとワガママになっちゃったかな?……かわいいけど。

「朝秀くん、迷惑かけてるやろ。悪いね。」
半分牽制のつもりでそう言ったけど

「いえいえ。姫は多少傲慢なぐらいがいいですよ。孝義もおもしろがってます。」
と、全く伝わらなかった。

てか、希和~~~~。
俺と遊ぼうよ~~~~~~。
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