夢が醒めなくて
7月の終わりには、由未が恭匡(やすまさ)さんと帰ってきた。
秋の結婚式の準備と打ち合わせが山ほどあるらしい。
恭匡さんは既にご両親を亡くしてらっしゃるので、叔母の橘 領子(えりこ)さまに親の役割をお願いすることになる。
……ここで問題が1つ……いや、2つだな。
俺の父親と領子さまに関係があったこと……結婚前ということになってるけど、領子さまの娘の百合子は父親の子らしい。
2人は今も繋がっているのではないか、と百合子は疑っていた。
なるべく母親がつらくならないように、気を遣う必要がありそうだ。
そしてもう1つは、百合子と俺の関係。
まさか半分妹だとは思わず、軽い気持ちで手を出してしまって……泥沼にハマってしまった。
愛情なんかこれっぽっちもなかったのに、妹だと知ったら不憫でいじらしくてかわいくて……。
なるべく逢わないようにしてるけど、あの綺麗な目で見つめられると理性が吹っ飛ぶんだよな。
百合子、どうしてるかな。
誰の目から見ても、やんごとない美しいお姫さまなのに、俺なんかに執着したせいで、かわいそうな想いをさせてしまった。
いい奴といい恋愛できてるといいんだけど……。
「というわけで受付は百合子と、由未ちゃんの大学の同級生にお願いしようと思う。」
恭匡(やすまさ)さんがそう報告すると、横から由未が口を出した。
「碧生(あおい)くんってゆーの。帰国子女のちょっと変わったヒトでね、恭兄さまとすっかり仲良し。」
すぐにピンときた。
恭匡さんは、その男と百合子を引き合わせるつもりなのだろう。
浮かべた笑顔は変わらないけれど、その目が俺に釘を刺してる気がした。
余計な邪魔するなよ、と。
……わかってますよ。
俺だって、百合子が俺以外の男を好きになってくれたほうが、気が楽だ。
由未が、サッカー少年を経て、恭匡さんに落ち着いたように、百合子も幸せになってほしい。
まあ、そいつがどんな男かは、じっくり見させてもらうけどな。
「そういえば、お兄ちゃん、あの光くんと仲良しになったって?ずるーい。」
「いや、仲良しなんて恐れ多い。光くんは、俺の師匠やで。」
大真面目にそう言っても由未はキョトンとしていた。
それまで母親の隣で黙って紅茶を飲んでいた希和は、口を尖らせた。
「私なんか、口をきいてもらえないどころか、見てるだけで逃げられちゃうのに。」
「あはは!私も私も!赤ちゃんの時にもっと触っておけばよかった。」
由未が同調して希和をなだめた。
「そんなに人見知りなの?……何だか披露宴でお会いするの、楽しみね。」
母親がそう言うと、由未が首を傾げた。
「んー、あおいちゃんと頼之さんは来てくれはるみたいやけど、光くんは無理やと思う。パニック起こさはるわ。」
希和も、うんうんと何度もうなずいていた。
細い金の鎖と真珠がさらさらと揺れた。
秋の結婚式の準備と打ち合わせが山ほどあるらしい。
恭匡さんは既にご両親を亡くしてらっしゃるので、叔母の橘 領子(えりこ)さまに親の役割をお願いすることになる。
……ここで問題が1つ……いや、2つだな。
俺の父親と領子さまに関係があったこと……結婚前ということになってるけど、領子さまの娘の百合子は父親の子らしい。
2人は今も繋がっているのではないか、と百合子は疑っていた。
なるべく母親がつらくならないように、気を遣う必要がありそうだ。
そしてもう1つは、百合子と俺の関係。
まさか半分妹だとは思わず、軽い気持ちで手を出してしまって……泥沼にハマってしまった。
愛情なんかこれっぽっちもなかったのに、妹だと知ったら不憫でいじらしくてかわいくて……。
なるべく逢わないようにしてるけど、あの綺麗な目で見つめられると理性が吹っ飛ぶんだよな。
百合子、どうしてるかな。
誰の目から見ても、やんごとない美しいお姫さまなのに、俺なんかに執着したせいで、かわいそうな想いをさせてしまった。
いい奴といい恋愛できてるといいんだけど……。
「というわけで受付は百合子と、由未ちゃんの大学の同級生にお願いしようと思う。」
恭匡(やすまさ)さんがそう報告すると、横から由未が口を出した。
「碧生(あおい)くんってゆーの。帰国子女のちょっと変わったヒトでね、恭兄さまとすっかり仲良し。」
すぐにピンときた。
恭匡さんは、その男と百合子を引き合わせるつもりなのだろう。
浮かべた笑顔は変わらないけれど、その目が俺に釘を刺してる気がした。
余計な邪魔するなよ、と。
……わかってますよ。
俺だって、百合子が俺以外の男を好きになってくれたほうが、気が楽だ。
由未が、サッカー少年を経て、恭匡さんに落ち着いたように、百合子も幸せになってほしい。
まあ、そいつがどんな男かは、じっくり見させてもらうけどな。
「そういえば、お兄ちゃん、あの光くんと仲良しになったって?ずるーい。」
「いや、仲良しなんて恐れ多い。光くんは、俺の師匠やで。」
大真面目にそう言っても由未はキョトンとしていた。
それまで母親の隣で黙って紅茶を飲んでいた希和は、口を尖らせた。
「私なんか、口をきいてもらえないどころか、見てるだけで逃げられちゃうのに。」
「あはは!私も私も!赤ちゃんの時にもっと触っておけばよかった。」
由未が同調して希和をなだめた。
「そんなに人見知りなの?……何だか披露宴でお会いするの、楽しみね。」
母親がそう言うと、由未が首を傾げた。
「んー、あおいちゃんと頼之さんは来てくれはるみたいやけど、光くんは無理やと思う。パニック起こさはるわ。」
希和も、うんうんと何度もうなずいていた。
細い金の鎖と真珠がさらさらと揺れた。