夢が醒めなくて
「……義人さん。」
式のあと、写真撮影の準備が整う間に、珍しいヒトから声をかけられた。
領子さまだ。
「ご無沙汰いたしております。橘のおばさま。」
母親譲りの外面(そとづら)の良さをフル稼働してご挨拶した。
「ごきげんよう。大学院に合格されたそうね。おめでとうございます。……かわいらしいお嬢さんね。」
なるほど、希和が気になって俺に声をかけてきたらしい。
……父親から、何か聞いたのだろうか……たぶん領子さまにとっても縁者と言えることを。
「ありがとうございます。希和。おいで。」
「希和……子さん?」
領子さまはいつも静かにとりすましてらっしゃって、感情が見えない。
けど、何か思い当たることはあったらしい。
「はい。希和子と申します。はじめまして、おばさま。よろしくお願いします。」
たったの一年で、誰に対しても物怖じしない挨拶ができるようになったもんだ。
目を細めて希和を見てると、領子さまが静かにおっしゃった。
「お噂は甥からも伺っております。これからは親戚ですから、いつでも頼ってくださいね。」
社交辞令なはずなのに、何となく優しい気がした。
写真撮影の後、由未と恭匡さんは花嫁タクシーで、他は黒塗りのタクシーで連なって披露宴会場となる日比谷のホテルに到着した。
希和の手をエスコートするように引いて歩いてくと、
「すっかりお姫さまが板に付いたね。」
と、セルジュがからかった。
「よぉ。遠くまで来させて悪いな。彩乃も。ありがと。由未が喜ぶわ。……静稀ちゃん、由未の控え室にいるで。」
「ココ、東京劇場の真ん前で、僕の定宿。さすがに、静稀と一緒にいるわけにはいかないよ。」
苦笑したセルジュに、彩乃がニマニマ笑った。
「普通にしてりゃいいのに、高遠(たかとお)くん、中学生の初恋みたいにちらちらちらちらセルジュを見とったで。」
静稀ちゃんを芸名で呼ぶ彩乃に、セルジュは「しーっ」と小声で人差し指を唇にあてた。
何故か希和も、同じゼスチャーをしていた。
そして俺の手を引いて
「控え室、行ってきていい?」
と、かわいくねだった。
「あ。じゃあ俺らも一緒に行こうか。セルジュ。」
すっかり面白がってる彩乃に引っ張られてセルジュも希和と一緒に控え室へと向かった。
俺はウェイティングルームでお客さまにご挨拶……と、その前に、受付カウンターへ。
……なるほど。
一見ちゃらそうなイケメンと百合子がお客さまの対応をしてくれていた。
こいつが、「碧生(あおい)くん」か。
式のあと、写真撮影の準備が整う間に、珍しいヒトから声をかけられた。
領子さまだ。
「ご無沙汰いたしております。橘のおばさま。」
母親譲りの外面(そとづら)の良さをフル稼働してご挨拶した。
「ごきげんよう。大学院に合格されたそうね。おめでとうございます。……かわいらしいお嬢さんね。」
なるほど、希和が気になって俺に声をかけてきたらしい。
……父親から、何か聞いたのだろうか……たぶん領子さまにとっても縁者と言えることを。
「ありがとうございます。希和。おいで。」
「希和……子さん?」
領子さまはいつも静かにとりすましてらっしゃって、感情が見えない。
けど、何か思い当たることはあったらしい。
「はい。希和子と申します。はじめまして、おばさま。よろしくお願いします。」
たったの一年で、誰に対しても物怖じしない挨拶ができるようになったもんだ。
目を細めて希和を見てると、領子さまが静かにおっしゃった。
「お噂は甥からも伺っております。これからは親戚ですから、いつでも頼ってくださいね。」
社交辞令なはずなのに、何となく優しい気がした。
写真撮影の後、由未と恭匡さんは花嫁タクシーで、他は黒塗りのタクシーで連なって披露宴会場となる日比谷のホテルに到着した。
希和の手をエスコートするように引いて歩いてくと、
「すっかりお姫さまが板に付いたね。」
と、セルジュがからかった。
「よぉ。遠くまで来させて悪いな。彩乃も。ありがと。由未が喜ぶわ。……静稀ちゃん、由未の控え室にいるで。」
「ココ、東京劇場の真ん前で、僕の定宿。さすがに、静稀と一緒にいるわけにはいかないよ。」
苦笑したセルジュに、彩乃がニマニマ笑った。
「普通にしてりゃいいのに、高遠(たかとお)くん、中学生の初恋みたいにちらちらちらちらセルジュを見とったで。」
静稀ちゃんを芸名で呼ぶ彩乃に、セルジュは「しーっ」と小声で人差し指を唇にあてた。
何故か希和も、同じゼスチャーをしていた。
そして俺の手を引いて
「控え室、行ってきていい?」
と、かわいくねだった。
「あ。じゃあ俺らも一緒に行こうか。セルジュ。」
すっかり面白がってる彩乃に引っ張られてセルジュも希和と一緒に控え室へと向かった。
俺はウェイティングルームでお客さまにご挨拶……と、その前に、受付カウンターへ。
……なるほど。
一見ちゃらそうなイケメンと百合子がお客さまの対応をしてくれていた。
こいつが、「碧生(あおい)くん」か。