夢が醒めなくて
余興やお色直しの合間合間に、忙しく各テーブルを挨拶で回る。
さっきぷんぷんしていた希和も、母や俺の影響か、ずっとにこやかにくっついて回った。
ほら、こんなにかわいいのに……かわいいって言って怒られるって、納得いかんわ。
希和の笑顔が見ていたいんだけどな。

披露宴の後、恭匡さんのお友達が盛り上がったらしく、急遽二次会の伝令が回ってきた。
橘のおばさまと帰ろうとしていた百合子は、当然のように碧生くんに引き留められて、断っても断ってもずっとまとわりつかれて困っているように見えた。
どうやら、碧生くんは百合子が気に入ったらしい。

恭匡さんも交えて言葉を交わしていると、一通り会場を回って挨拶してきた由未が戻ってきた。
碧生くんは、百合子と由未を見て言った。

「やっぱり百合子ちゃん、由未と似てる。初対面だとは思えないわけだよ。」

ざわめきと喧噪の中、確かに時が止まった……百合子と、由未と、恭匡さんと、俺の。
何も知らないはずの希和も空気が変わったのを察知したらしく、神妙に俺達を見ていた。

百合子は由未と、異母姉妹だ。
もちろん、碧生くんはそんなことは知らない。
てか、百合子と由未は、ハッキリ言って似てない。
顔も雰囲気も性格も、似てない。
なのに、こいつは「似てる」と言うのか。

誰も言葉を発せない奇妙な間を経て、最初に口を開いたのは百合子だった。
「うれしいわ。私も、由未さんの幸せにあやかりたいわ。」
ほほ笑みさえ浮かべて、百合子はそう言った。

「似てないよ。碧生くん、海外長すぎて日本女性がみんな同じに見えるんじゃない?百合子は由未ちゃ……妻(さい)より、ずっと上品で綺麗だよ。」
恭匡さんのほうが焦ってるらしい。

俺は、曰くのある2人なのに百合子の言葉がうれしくて……まぶたが熱くなった。
「せやな。百合子ちゃんのほうが美人やし、情も深いな。幸せになりや。」
……普通は新婦の由未に対して言う言葉なのに、俺はもう1人の妹に向けて心からそう言っていた。

「義人さん。」
百合子が目を潤ませた。

すると、碧生くんは俺達の間の空気を察知したらしい。
俺に対抗意識を燃やしたらしく、突然百合子に言った。
「百合子ちゃん、俺と付き合わない?」

「早っ!」
由未のツッコミのあと、恭匡さんが窘めた。

「碧生くん、あまり性急だと軽く思われるよ。百合子も困ってる。距離も離れてることだし、まずはお友達になってやってくれるかい?」
……いや、窘めてないよな……恭匡さん、けっこう強引にまとめようとしてる。

百合子は俺から碧生くんに視線を移した。
「冗談じゃないんですか。」

「俺はいつも本気です。」
表情を引き締める碧生くん。

「そうですか……」
百合子は少し考えてから、おもむろに頷いた。
「恭匡さんが勧めてくださるのなら、前向きに検討いたしますわ。」

希和が俺の手をきゅっと握った。
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