夢が醒めなくて
「こんばんは。遅くなりました。竹原です。」
そう挨拶すると、百合子は手をついて黙礼した。
華やかな小紋を着た女の子は、逆に立ち上がった。
「え~!マジでかっこい~!嘘~!」
百合子は段ぼかしの無地を着ていた。
その場にふさわしい着物を絶対にはずさない百合子のこと、たぶん裏方か水屋仕事を手伝うつもりで来たのだろう。
やっぱり、ダメだ。
どんなに宗和が昔より落ち着いたといっても、くそ真面目で融通の効かない百合子に合うわけがない!
宗和の案内で、奥の茶室に入る。
電気の引いてない、古い小さい茶室には和蝋燭が揺れていた。
朱塗りの盃を、宗和が酒で満たす。
美味そうだけど、車で来てるんだよな。
ためらってるすぐ横で、百合子はぐぐーっと盃を飲み干した。
これが飲まずにやってられっかー!……たぶん、そんな気分なのだろう。
「あれ?橘さん、二十歳越えてましたっけ?」
「……誕生日はまだですが、成人式は終わりました。」
宗和の野暮な問いに、百合子はすましてそう答えた。
負けず嫌いな百合子らしくて、ちょっと笑ってしまった。
「俺の分も飲んだらいいわ。つぶれても、車で来てるから送るし。」
結果的に、これが宗和への牽制となった。
「知り合い?」
「妹の旦那さんの従妹。」
宗和の質問に、表向きの事実だけを答えた。
異母妹で、昔つきあったことがあって、今も微妙な関係続行中とは言う必要もないだろう。
宗和は、あー……と、残念そうに相づちを打った。
俺たちは、なるべく互いを見ないようにしていた。
でも、酒の後のお膳で一汁三菜を1つ1ついただきながらも、視界に入ってくる百合子が気になって仕方なかった。
「寒いと思ったら、雪が降ってきましたね。」
八寸と酒を楽しみながら宗和が言った。
「綺麗~!」
十文字さやかと紹介された女の子が雪見障子を少し開けた。
宗和は、庭にも和蝋燭を配置していた。
よく手入れされた美しい日本庭園に舞う雪が、ちらちらと揺れて燃える光に照らされるさまは、確かにとても幻想的で美しかった。
でも、俺の目は……雪を見ている百合子から離せなかった。
俺の視線に気づいたのか、百合子がこっちを見た。
視線が絡み合う。
それだけで、身体が甘く疼いた。
「……綺麗やな。」
見つめ合ったままそう言ったら、百合子の瞳が揺れた。
「雪が積もって、光が映えて綺麗ですよ。」
宗和が貴人口を少し掲げて庭を見せた。
「さぶっ!」
さやか嬢がそう言うと、宗和は残念そうに戸を下ろした。
なるほど。
茶道を習い始めてばかりのさやか嬢を見てると、宗和が俺を誘った理由がよくわかった。
せっかく趣向を凝らしても、理解してもらえない相手じゃ虚しいよな。
そう挨拶すると、百合子は手をついて黙礼した。
華やかな小紋を着た女の子は、逆に立ち上がった。
「え~!マジでかっこい~!嘘~!」
百合子は段ぼかしの無地を着ていた。
その場にふさわしい着物を絶対にはずさない百合子のこと、たぶん裏方か水屋仕事を手伝うつもりで来たのだろう。
やっぱり、ダメだ。
どんなに宗和が昔より落ち着いたといっても、くそ真面目で融通の効かない百合子に合うわけがない!
宗和の案内で、奥の茶室に入る。
電気の引いてない、古い小さい茶室には和蝋燭が揺れていた。
朱塗りの盃を、宗和が酒で満たす。
美味そうだけど、車で来てるんだよな。
ためらってるすぐ横で、百合子はぐぐーっと盃を飲み干した。
これが飲まずにやってられっかー!……たぶん、そんな気分なのだろう。
「あれ?橘さん、二十歳越えてましたっけ?」
「……誕生日はまだですが、成人式は終わりました。」
宗和の野暮な問いに、百合子はすましてそう答えた。
負けず嫌いな百合子らしくて、ちょっと笑ってしまった。
「俺の分も飲んだらいいわ。つぶれても、車で来てるから送るし。」
結果的に、これが宗和への牽制となった。
「知り合い?」
「妹の旦那さんの従妹。」
宗和の質問に、表向きの事実だけを答えた。
異母妹で、昔つきあったことがあって、今も微妙な関係続行中とは言う必要もないだろう。
宗和は、あー……と、残念そうに相づちを打った。
俺たちは、なるべく互いを見ないようにしていた。
でも、酒の後のお膳で一汁三菜を1つ1ついただきながらも、視界に入ってくる百合子が気になって仕方なかった。
「寒いと思ったら、雪が降ってきましたね。」
八寸と酒を楽しみながら宗和が言った。
「綺麗~!」
十文字さやかと紹介された女の子が雪見障子を少し開けた。
宗和は、庭にも和蝋燭を配置していた。
よく手入れされた美しい日本庭園に舞う雪が、ちらちらと揺れて燃える光に照らされるさまは、確かにとても幻想的で美しかった。
でも、俺の目は……雪を見ている百合子から離せなかった。
俺の視線に気づいたのか、百合子がこっちを見た。
視線が絡み合う。
それだけで、身体が甘く疼いた。
「……綺麗やな。」
見つめ合ったままそう言ったら、百合子の瞳が揺れた。
「雪が積もって、光が映えて綺麗ですよ。」
宗和が貴人口を少し掲げて庭を見せた。
「さぶっ!」
さやか嬢がそう言うと、宗和は残念そうに戸を下ろした。
なるほど。
茶道を習い始めてばかりのさやか嬢を見てると、宗和が俺を誘った理由がよくわかった。
せっかく趣向を凝らしても、理解してもらえない相手じゃ虚しいよな。