夢が醒めなくて
ようやく落ち着いた百合子を家の前まで送ってった。
「じゃ、俺、戻って二次会に合流するけど……宗和はやめときーな。」
念のために釘を刺した。

「若宗匠?別に、そういうんじゃないけど?」
全くわかってないというか、宗和を意識してない百合子は、かわいいけれどやっぱり危うくて、とてもほっとけなかった。

「やっぱり気づいてへんにゃ。宗和は百合子狙いで茶会開いたんやと思うで。」
「……さやかさんじゃないの?」

本気でそう思ったのか?
間抜けすぎるぞ、百合子。
ちくしょー、かわいいじゃないか。

思わず百合子の頭を撫でた。
「あの子は俺に宛がう気やってんろ。そういや百合子、あの子の無神経に苛つかんと、親切にしてやってたな。えらかったな。」
ついでに、そう褒めた。

百合子は不思議そうに俺に尋ねた。
「若宗匠はどうしてダメなの?好青年だと思うけど……」

……宗和のやつ、相当ぶりっ子してやがる。

「表向きはな。でもあいつの性癖はちょっと度を超したS。百合子が複数プレイで虐められていいんやったら止めへんけど。」
言いたかないけど、これ以上に効果的な理由はないだろう。

百合子は涙目でぶるぶると首を横に振った。
あまりにもかわいくて、俺はまた百合子の白い額に口付けた。

「よかった。大事な大事な百合子のそんな画像がネットに流出するんは嫌やから。」
頼むで、ほんまに。

……キリがないので、助手席のドアのロックを解除した。

「ほな、行くわ。ちゃんと恋しろよ。誰でもいいから。俺以外な!」
百合子は何とも言えない表情で車から降りた。

少し蒸気した頬も、潤んだ瞳も、俺の後ろ髪を引くには充分だった。
俺は百合子を視界から追い出して、雪の降りしきる中を走った。


二次会の料亭に行くと、宗和とさやか嬢がずいぶんと打ち解けていた。
このまま付き合うのかな?

その時はそんな風に思えたけど、どうやら宗和は、あっさりとさやか嬢に逃げられたらしい。
……せっかく頑張って自腹でお茶事を催したのにな。
まあ、これから頑張れ。


帰宅はけっこう遅くなってしまった。
とっくに母親も寝てるだろうと暢気(のんき)に家に入ると、居間に冷えピタシートを額に貼った希和がいた。

ソファの長椅子で毛布にくるまって眠ってるようだ。
テーブルに飲みかけのミルクティー、手にはしっかりと古い岩波文庫を握っていた。

……また、坂巻くんに借りたのかな。

少し胸がもやっとした。
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