夢が醒めなくて
ハッキリ言って孤独だし、遅くまで残っても目に見えて片付いてくれない。
……リストラ部屋って、こんな感じなのかもしれない。

「それも含めての全容を知っていただきたいのでしょうね。」
ちょっとうれしいのは、原さんが何となく以前より親切になった気がする。
昔、兄のように慕った頃のような……優しさすら感じることがある。

「父は俺に、この会社をどうして欲しいんでしょうね。」
これは、以前から抱いていた疑問だった。

普通は、さらなる発展を託すのが起業家であり、親だろう?と思うんだけど……うちの場合は特殊だと思う。
父親はずっと、俺に継がせるとは決めてない、と公言してきた。
たぶん、俺に能力がないと判断したら、あっさりと会社から放り出すのだろう。

だからといって、会社や社員を我が子より大切にしてるというわけでもない。
買収を繰り返して大きくなった会社だが、まるで囲碁で陣地を広げるかのような拡大からはグループ全体の目標がよくわからない。

「私には何とも。……それも含めて、義人さんに判断してほしいのではありませんか?」
原さんの返答に、俺は苦笑した。

「禅問答ですね、まるで。」
でも原さんはニコリともせずに言った。

「答えが出るまで、頑張ってください。」
「え~?公案を解かないとココから出られないんですか?」
冗談のつもりでそう言ったのだが、原さんは何も言わずに深々とお辞儀をして、金庫室を出て行った……いつものように、外から施錠して。

……マジかよ。


日々の癒やしは、希和の笑顔……なのだが、このところ、希和はずっと元気がないように見える。
正直、会社とゼミでいっぱいいっぱいなので、去年までのようには一緒に過ごせない。

せめて朝の登校は俺の出勤を無理矢理早めて送ってるけれど、夜、勉強を見てやる時間もなくなってしまった。
希和は独りでも真面目に勉強していて、ずっと坂巻くんと学年1位と2位を分けているようだ。

「また、ため息ついた。……学校、嫌なことでもあるんか?」
もうすぐ夏休みだというのに、希和は沈んでいた。

「……何でもない。」
明らかに、何でもなくはなさそうに希和はそう言って、唇をぎゅっと結んだ。

「ふーん?期末テストが返ってくるとか?」
しつこくそう聞くと、希和は下を向いて言った。

「そんなんじゃない。……テストは自信ある。満点かも。……でも、また、何か言われるかも……」
どういう意味だ?

「虐められてるのか?朝秀くんと坂巻くんはどうした?」

何のために2人が希和のそばにいることを黙認してると思ってんだ。
ちゃんとボディーガードしてやってくれ。
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