夢が醒めなくて
父親の公的な半生を辿る。
それは、不肖の息子にとってはプレッシャーでもあったが、これまで知らなかった新たな父親像を再構築することとなった。
同時に俺は、外野でしかなかったことを思い知らされた。

何も知ろうともしないまま父親に不信感を抱いた俺に対して、父親の秘書の原さんが俺に冷たくなってったのも納得だな。
まあ、今も、父親が正義だとは言わない。
バレたら逮捕されそうな犯罪も数え切れないほど隠蔽してきたことも知った。

でも、父親の信念は何となくわかる気がした。
非人道的な手段は避けてるし、結果的に不幸になったヒトには可能な限りのフォローも入れてるようだ。

……そういえば、世間では嫌というほど陰口をたたかれているが、実際に父親を憎悪する人間に会ったことがないことに、今さらながら気づいた。


俺が倉庫室軟禁状態でマル秘資料を分析してる間に、周囲ではいくつかの変化が生じていた。

5月に、親友の彩乃が長年付き合ってた恋人のあきちゃんと結婚して、あっさり子宝に恵まれた。

そして、小門の狙い通り、あおいちゃんが妊娠した。
光くんは生まれてくる弟を守るために空手を習い始めたが、本人以外は、綺麗すぎる光くん自身の護身用にと思ってるようだ。

百合子は、恭匡(やすまさ)さんの希望通り、碧生くんと付き合っている。
他にも言い寄ってくる男がいたらしく由未がやきもきしてたけど、まあ、落ち着くところに落ち着いたようでよかった。

その由未は、かなりめんどくさい病にかかってしまったらしい。
肺高血圧症という難病だそうだ。
大学の体育の授業で驚くほど息切れすると思ってたら、突然、咳き込んで血痰を出したらしい。
慌てて病院で検査を受けたところ難病とわかった。
少し前までは命の危険もある病気だったが、最近では肺移植という選択肢ができ、さらには新薬の開発が進んだため、とりあえず当面は生きられそうだ。

ただ、妊娠出産にはドクターストップがかかってしまった。
由未を宝物のように大事にしてくださっている恭匡さんは、当然、離婚する気も他の女性に自分の子供を産ませるつもりもないらしく……天花寺家の後継は百合子の肩にかかりそうだ。


「由未お姉さん、しんどそうやったね。」
それでも恒例の桜の園遊会に恭匡さんと来てくれた由未を、希和はずっと気遣ってくっついていた。
< 212 / 343 >

この作品をシェア

pagetop