夢が醒めなくて
「十文字さまって、人材派遣会社の?」
「まあ、それだけではないが、手広くご商売されてるな。長女さんは政治家の妻にならはって、金がかかるとぼやいてはったわ。……彼女は次女だが……彼女と結婚する男があそこの会社を継ぐことになる。悪くない話やろ?」
どこまで本気なのか、父親は意味ありげに俺にそう言った。
「へえ。じゃあ、俺は無理ですね。お父さんの会社だけでも大変ですから。」
そう牽制したけど、父はふふんと笑った。
「吸収合併すればいい。」
そういうこと、こんなところで言うなよ。
ちょうど客席の照明が消えて芝居が始まったので、俺は父の言葉を黙殺した。
とても笑える心境ではなかったが、芝居は面白かった。
幕間に予約されたレストランへ行くと、さやか嬢が元気に手を振った。
「あ~!義人さ~ん。覚えてます?さやか、でーす。」
さやか嬢は、2年前の印象と変わってなかった。
あの時も思ったけれど、現代的な美人なんだよな。
手足が長くて、細いのに胸があって、スタイルがいい。
だから補正してても着物が似合わない。
まあ、2年前よりは綺麗に着てると思うよ。
「ええ。久しぶりですね。今もお茶のお稽古は続けてらっしゃるのですか?」
……暗に、宗和と少しつきあっていたことを知ってるぞ、と匂わせて牽制したつもりだった。
でもさやか嬢には通じなかった。
「やだ!すぐ辞めちゃいましたよー。結婚前提とか言われても、若宗匠、変態なんだもん。気持ちイイのはいいけど痛いのは、無理!つきあえない!」
空気が凍った。
うちの両親はドン引きし、さやか嬢のお父君は頭を押さえ、お母君は真っ赤になって
「さやかちゃん!」
と、窘めた……まあ、効果ゼロだけどな。
「まあ、宗和に嫁ぐには、さやかちゃんはフランク過ぎるかな。怖いおばさま達がいっぱいいるから。妹もよくわからないおばさまの派閥争いに巻き込まれて距離を置いたみたいやわ。」
さやか嬢の失言を無視してそう言って、その場を納めた。
幕間は30分しかない。
慌ただしくお料理を食べつつ、さやか嬢の失言を牽制していたら、あっという間に過ぎてしまった。
「二幕も楽しみですぅ。」
と独りご機嫌なさやか嬢を伴い、ご両親に会釈してから桟敷席に戻った。
対面の母親2人が心配そうにこっちを見ていた。
真剣に舞台を楽しんで、泣いたり笑ったりしているさやか嬢の横顔は、やけに理知的で美しかった。
「まあ、それだけではないが、手広くご商売されてるな。長女さんは政治家の妻にならはって、金がかかるとぼやいてはったわ。……彼女は次女だが……彼女と結婚する男があそこの会社を継ぐことになる。悪くない話やろ?」
どこまで本気なのか、父親は意味ありげに俺にそう言った。
「へえ。じゃあ、俺は無理ですね。お父さんの会社だけでも大変ですから。」
そう牽制したけど、父はふふんと笑った。
「吸収合併すればいい。」
そういうこと、こんなところで言うなよ。
ちょうど客席の照明が消えて芝居が始まったので、俺は父の言葉を黙殺した。
とても笑える心境ではなかったが、芝居は面白かった。
幕間に予約されたレストランへ行くと、さやか嬢が元気に手を振った。
「あ~!義人さ~ん。覚えてます?さやか、でーす。」
さやか嬢は、2年前の印象と変わってなかった。
あの時も思ったけれど、現代的な美人なんだよな。
手足が長くて、細いのに胸があって、スタイルがいい。
だから補正してても着物が似合わない。
まあ、2年前よりは綺麗に着てると思うよ。
「ええ。久しぶりですね。今もお茶のお稽古は続けてらっしゃるのですか?」
……暗に、宗和と少しつきあっていたことを知ってるぞ、と匂わせて牽制したつもりだった。
でもさやか嬢には通じなかった。
「やだ!すぐ辞めちゃいましたよー。結婚前提とか言われても、若宗匠、変態なんだもん。気持ちイイのはいいけど痛いのは、無理!つきあえない!」
空気が凍った。
うちの両親はドン引きし、さやか嬢のお父君は頭を押さえ、お母君は真っ赤になって
「さやかちゃん!」
と、窘めた……まあ、効果ゼロだけどな。
「まあ、宗和に嫁ぐには、さやかちゃんはフランク過ぎるかな。怖いおばさま達がいっぱいいるから。妹もよくわからないおばさまの派閥争いに巻き込まれて距離を置いたみたいやわ。」
さやか嬢の失言を無視してそう言って、その場を納めた。
幕間は30分しかない。
慌ただしくお料理を食べつつ、さやか嬢の失言を牽制していたら、あっという間に過ぎてしまった。
「二幕も楽しみですぅ。」
と独りご機嫌なさやか嬢を伴い、ご両親に会釈してから桟敷席に戻った。
対面の母親2人が心配そうにこっちを見ていた。
真剣に舞台を楽しんで、泣いたり笑ったりしているさやか嬢の横顔は、やけに理知的で美しかった。