夢が醒めなくて
帰宅すると、お母さんが義人氏に噛みつかんばかりに、お見合い相手のことを根掘り葉掘り糾弾した。
……それで帰りたくなかったのか。

夕食中も、お母さんは嘆きまくっていた。

食後に、孝義くんのお母さまにいただいた甘酒を、人数分だけお鍋で温めながら聞き耳をたてていて、何となく全容がわかった。

どうやら、義人氏のお見合い相手は、お母さんのお眼鏡にかなわなかったらしい。
なのに、先方から今後も長くお付き合いしたい、と連絡が来たらしく、お母さんは猛反対しているようだ。

てか、義人氏?
お見合い相手と、付き合うの?
びっくりした。
……驚くようなことじゃないんだけど……女関係だらしないヒトだし、もてるし……なのに、何でこんなに……びっくりしてるんだろう。
あ、でも。
久し振りかも。

ジェンヌのれいさんも結婚されたし、ここ最近、浮いた話を聞かなかった気がする。
夜遊びも朝帰りもほとんどない。
義人氏がお父さんの会社で働き始めてからは、遅い帰宅が増えたけど、ずっと原さんがご一緒してらっしゃるらしい、何一つ心配はなかった。

……心配?
私は何の心配をするの?
心配なんかする立場?
何様のつもり?
思い上がってる自分に気づいて、私は愕然とした。

「お父さん、どうぞ。」
やり合ってる2人は後回しにして、お父さんに温めた甘酒を出した。

「これは?」
「坂巻さんからいただきました。手作りの甘くない甘酒。懐かし味がして美味しいって言ったら、一升瓶で分けてくださって。」
そう説明すると、お父さんはちょっと目を見張ってから、うれしそうにうなずいた。

「そうかぁ。何かと気遣ってくださって、ありがたいなあ。いただくわ。ありがとう。」
そう言って一口飲んで、お父さんはまたうなずいた。

「ほんまやな。手作りの味が、懐かしい気がするわ。」
2人で顔を見合わせて、ニコニコとほほ笑み合った。

お父さんとはいつもたいした会話はしない。
でも、日常の何気ないやりとりや言葉がいつも優しくて温かくて……すごく幸せな気持ちになる。

お父さんも、いつか同じようなことを仰ってくださったので、私は用事がなくてもお父さんに話し掛けに行くようにしている。
……ほっといても世話をやいてくださるお母さんや義人氏と違って、お父さんには積極的に関わらないとお互いに遠巻きに眺めてるだけになっちゃうから。
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