夢が醒めなくて
「希和。それ、何~?」
お母さんから逃げるように義人氏がやって来た。

「甘酒。これ飲みながらやったら風邪ひかないかなーって。お庭の梅のとこ、行こう?」
そう誘ってみた。

「……懐中電灯で?」
からかうような義人氏を置いて、お母さんにも甘酒を渡す。

「あら、ありがとう。……んんん。生姜、美味しい。……ちょっと義人!どこ行くの!?まだ話は終ってないんだけど!?」
「終了終了。てか、何も話すことないって。希和~~~。行こう~~~。」
別に義人氏をお母さんの追求から助けたつもりはなかったのだけど、結果的にそうなってしまった。


3月に入ったとは言え、夜のお庭は寒かった。
甘酒で暖を取りながら、大好きな梅のエリアを目指す。

「懐中電灯は無粋やし、提灯かランタンでも準備しとこうか。」
まだそんなこと言ってる。

「いらない。」
そう言ったら、義人氏は不満そうに言った。

「えー、でも、見えへんやん。」
「……見えなくても、ほら、梅の香り……ね?」
「ね?」

義人氏にはまだ伝わらないらしい。

「いい香り。……それに目が慣れてきたら、月の光で白梅が浮き上がって見えてくるねん。」
そう言って、私は梅の古木を指さした。

「……もしかして、希和、昼間だけじゃなくて、夜中にもココに来てる?……さすがに、それは危ないわ。」

ギクッ。
義人氏に指摘されて私は思わず黙った。
だって、梅が咲いてるシーズンって短いもん。

いつまでも黙ってる私に、義人氏は苦笑した。
「ほな、今度から今日みたいに俺を誘うこと。寝てても、雨の日でも、まだ帰ってなくても。希和がココに来たいゆーたら、飛んで帰ってきて必ず付き合うから。」

……うれしいけど、私は……うれしいと伝えられなかった。
喉の奥に言葉がつかえて……胸が苦しかった。


……デートしてても帰って来てくれるの?




高校生になった。
私と春秋(はるあき)くんは同じクラスだったけれど、孝義(たかよし)くんとはクラスが分かれてしまった。

「まあ、しょうがないな。来年は選択科目、一緒にしような。」
春秋くんは孝義くんの肩を抱いてそう言ってたけど
「気持ち悪ぅ。どうでもええわ、そんなもん。」
と、孝義くんはクールに春秋くんを突き飛ばした。


孝義くんは高校でもサッカー部に入部した。
が、高校サッカー部は中学サッカー部よりリベラルで……ぶっちゃけると、緩すぎて人数が集まらない。
一応登録部員数上は紅白戦ができるはずなのだが、毎日の練習に出てくるのはその半分以下。

キーパーすら持ち回りという笑えない状況。

なのにマネージャーは3人いるとか。
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