夢が醒めなくて
春秋くんと私は、毎日のようにサッカー部横のベンチで、孝義くんの練習を冷やかしながらお弁当を食べた。

放課後も私は義人氏到着までの時間を孝義くんの部活を見て過ごしたけれど……春秋くんには変化が生じた。
電車でコクってきた子と付き合い始めたのだ。

系列女子校に通っている可愛い子で、春秋くんはまるで義人氏のようなことを彼女に言ったそうだ。
『俺、他にも彼女作るけど、それでもいいんやったら君とも付き合ってもいいで。』

「えー!最低!そんなこと言うたん?」
お箸を握りしめてそう詰(なじ)ると、春秋くんはしれっと言ってのけた。

「だって、その子のこと何も知らんのに。お試し期間みたいなもん。あと、大事なことが1つ。」
春秋くんはそう言って、私の顔を下から覗き込むように見て言った。

「最優先で守りたい女の子は既にいるから、って言った。」

……さすがに、恥ずかしいんですけど。
頬が熱い。
普段、春秋くんは、私に対して一切、押しつけがましいことを言わない。
私のトラウマや、憧れの義人氏に私を守ってくれって言われたこととか、孝義くんとのバランスとか、いろいろ考えた上で気持ちを封じ込めてくれてて……私はずっとそれに甘えていた。

「……彼女に悪いから、私のことは、もういいよ?今まで、ありがとう。」
いつか言わなきゃって思ってた。
彼女ができたのなら頃合いなのだろう。
居心地のいい友情ごっこが永遠に続くわけがない。
……孝義くんも……クラスも離れたことだし……もう……解放したげないと……

でも、春秋くんは、苦笑した。
「いや、だから、希和子ちゃんが最優先だから。何のために、うちの学校の子は断り続けてると思ってんの。」

そうなの?
確かに、春秋くんも孝義くんもモテる。
ことあるごとに告白されてる。
なのに誰ともつきあわず、ずっと3人でいるから、私、女子にめっちゃ嫌われてるんですけど……2人の気持ちがうれしいので甘えてた。

「それでいいの?せっかくモテるのに。」
「だ~か~ら!他の学校の子やったら、希和子ちゃんを竹原先輩に託してから、デートできるやん。ノープロブレム。無問題(モウマンタイ)。デイタイムはナイトに徹して、ナイトタイムはデート三昧ですわ。」
と、春秋くんらしい言葉で私の気持ちを軽くしてくれた。

……義人氏は春秋くんのことをよく「太鼓持ち」と言うけど、気が利いて優しいんだと思う。
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