夢が醒めなくて
「ありがとう。でも、遠慮せんと、私のことなんか忘れるぐらい女の子を好きになって。祈ってる。」
そう言ったら、春秋くんはもっともらしくうなずいた。

「俺も。でも、ハッキリゆーて難しい。希和子ちゃんほど庇護心かきたてる子ぉ、知らんもん。あの子じゃ下剋上は無理やろなー。」

「わからんでー。革命起きるかもしれんやん。」
いつの間にか、孝義くんがそばにいた。

「革命起こすとしたら、孝義やろ。俺はフォールド。」
春秋くんが孝義くんに言った言葉の意味を、私は敢えて黙殺した。

「春秋くん、彼女できてんてー。」
迎えに来てくれた義人氏にそう報告した。

「へぇ?……すぐ別れそうやな。」


義人氏の身も蓋もない予想は、一週間後に的中した。

春秋くんは、彼女と毎日登下校を同行し、毎晩彼女の門限ギリギリまでデートを重ね、あっさり破局した。

「何で!?めちゃマメにつきあってたのに!」

毎年恒例の桜の園遊会。
お茶席で生菓子をいただきながら春秋くんは悪びれずに言った。

「うん。努力はした。Hもした。でも、全くときめかへんし、愛しく感じひんねんししょーがないやん。これ以上は、お互いに時間の無駄やろ。」
「うわー……サイテー。」
「やー。彼女的には最後の賭けやってんろーな。やれること全部やって玉砕して、むしろすがすがしいってゆーてたで。」

……意味、わかんない。
せっかく、今日、彼女を連れてきてくれる予定だったのに。
見たかったなあ。

「で?孝義は?部活?」
「うん。サッカー部。あ、でも、孝義くんのご両親は今年もいらしてくださってん。」

猊下のお越しに、お父さんは相好を崩していた。

「ふーん。竹原先輩は?」
「ご挨拶に回ってる。……やっと名刺持たせてもらえたんやて。張り切って配ってはるわ。」

義人氏がお父さんの会社に入って、3年めに突入した。
この4月からの肩書きは、まさかの名誉職「参与」で、原さんが秘書と言う名の教育係についてくださったらしい。

「大学院生の間は幽霊社員ってことらしいな。」
そうこぼしながら、義人氏は忙しい日々を送っている。

「おっきい会社も大変やな……わぁお。」
春秋くんが急に変な声を出した。

「どーしたの?」
「めちゃナイスバディの美人がおる。芸能人かな。」

春秋くんの視線を追うと、確かに派手なかっこうのきれいなヒトがいた。
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