夢が醒めなくて
……女性は圧倒的に着物のヒトが多いし、洋服ならスーツか無難なワンピースのお上品なお客さまが多いなか、かなり場違いな女性。

オフショルダーのビビッドな赤いドレスは、スカート部分がタイトで短く、昔のボディコンと呼ばれたファッションに近い気がした。

「そぐわないけど、確かに美人さん。お父さんの元愛人だったりして。」
そう言ってから、慌てて自分の口を押さえた。
義人氏に聞かれたら、また怒られちゃう。

ちらちら見てると、彼女はキョロキョロと周辺を見渡しながら園内を歩き回り、お目当てのヒトを見つけたらしい。
グサグサと砂利道にハイヒールを突き刺して大股で歩いて、向かった先にいたのは、義人氏!

遠すぎて何を話してるのか全然聞こえないけれど、彼女は義人氏に封筒を渡した。
そして一目散に帰って行った。

……お仕事関係……にしては、派手よね。
もやもやする。
美人だった……。

「さすが竹原先輩。俺もあれぐらいイイ女に突撃されるよう、がんばろー。」
何をどうがんばるつもりか知らないけど、春秋くんはそう言ってお抹茶を飲んだ。


「昨日の赤いドレスの美人さん……オトモダチ?」
翌朝、車のなかで義人氏に尋ねた。
義人氏は、すごーく嫌な顔をした。
珍しいな、と思いつつ、じーっと見て返事を待った。

しばらくして、義人氏はあきらめたように言った。
「見てたんや。今までは友達じゃなかった。こないだの見合いで再会した。この先は未定。調整中。」

何?それ。
意味がわかんない。

「あの人、桜を一切見はらへんかった。」
何も飲まず、ただ義人氏に会って、帰ってった。

「興味ないんやろ。」
義人氏こそ、興味なさそうにそう言った。

「……確かに、お母さんとは合わなさそうやけど……綺麗なヒトやった。」
やばい。
涙がこみ上げてきた。

でも義人氏の焦った様子に、一気に興醒めして涙は引っ込んだ。
「え!お母さん、さやかちゃんに気づいてた?遭わへんように、早よぉ帰れゆーたのに。」

……さやかちゃん。
耳をふさぎたくなった。
義人氏、あのヒトを……さやかさんを気に入らないお母さんに隠れて、つきあうつもりなんだ……。

「……知らない。私も途中からお父さんとお母さん、見失ったから。……あ、でも……今朝も2人の様子、いつもと違った気がしたけど。」
「うん。俺もそんな気がした。なんやろ。……さやかちゃん、勝手に話進めてしもたんやろか……」

苦虫を噛み潰したような義人氏の顔からは、さやかさんへの恋心はまったく感じなかった。

……なのに、何で、つきあうの?

結婚するの?
仕事のため?

胸が痛い……
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