夢が醒めなくて
……。

いや、それ、もっと意味がわかんないし。

「だって、孝義くん、結婚するヒトとしかつき合わへんって……」
だから安全牌だと思ってたのに、突然そんなこと言われても。

……革命だ。

「うん。そのつもりや。あの人や春秋みたいに器用なことはできんわ。俺は1人でいい。それがお前やったら、うれしい。喜んで、一生を捧げる。」

孝義くんは、冗談も適当なことも言うヒトじゃない。
本気でそう思ってる、ってちゃんと伝わってきた。

……ううん。
たぶん孝義くんは自分で決めたことを遵守できるヒトだと思う。

どうしよう。
すごく、うらやましい。
義人氏とは違う。
孝義くんなら、私を不安にさせない。
気難しいし、マイペースだけど、本当は優しくて、いつも気配りしてくれてる。

でも……孝義くんは義人氏じゃない。
当たり前だ。
私、何を考えてるんだろう。

大前提として義人氏みたいな女性に誠実じゃないヒトは絶対嫌なのに……誠実な孝義くんが義人氏じゃないことを理由に悲観した。
ないものねだり?

それとも、私、本当は……義人氏が好きなんだろうか。
男のヒトとして……?


「返事は急がへん。けど、お前にも真面目に考えてほしい。誰を想ってるか。ほんまにその人でいいのか。冷静に、自分の一生を託す相手を見極めぇ。」
いつまでもYESもNOも言わない私に、孝義くんはそう言って立ち上がった。

それでもまだ言葉が出てこない。
孝義くんは明らかに固まってる私の目の前で軽く手を振った。

「あ……うん。ありがと。」
私はやっとそれだけ言った。
ら、孝義くんはニッと笑った。
「俺にしとき。悪いこと言わへんから。」

「……うん。そう思う。でも、まだ今はモヤモヤしてて、返事できひん。私も孝義くんのように、ちゃんと考えてから誠実に答えたいから。時間がほしい。」
正直にそう言ったら、孝義くんは力強くうなずいた。

「前向きによろしく。」
そして、一旦背中を向けてから、また振り返った。
「そや。断っても、何も変わらんから。今まで通り。変に気負う必要ないし。」

そんな風に先に言っちゃうんだ。
素直に、かっこいい、と思った。

「うん。ありがとう。できたら、そうしてほしい。」
ワガママだわ、私。

でも孝義くんは笑顔で言った。
「当たり前や。……一応言うとくけど、あの人も、春秋も、俺も、たぶん最優先はお前を守ることやから。」

あの人……義人氏もそうだと言うの?
確かに今まではすごくよくしてくれてたけど、家族になったから、複数の彼女とは別枠だっただけじゃないかな。

……さやかさんと結婚するって決めたなら……最優先は、さやかさんになるでしょ。

わかってる。

いつまでも、義人氏に甘えてられない。
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