夢が醒めなくて
「ほな、そういうことで。正式に申し込んだからな。」
少し大きな声で孝義くんはそう言うと、練習に戻って行った。
正式の意味がわからないまま独りぽつねんとベンチに座っていた。
周囲のヒト……近くを通りかかった生徒や、部員、マネージャーには最後の孝義くんの言葉はハッキリ筒抜けだったらしい。
あからさまに噂の的になってしまって居心地が悪い。
鞄の中から本を取り出して読んでるふりをして過ごした。
奉行人奉書という、室町時代の書簡というか命令書から、当時の世相を読み解く本なんだけど……正直、頭に入って来なかった。
携帯が、義人氏の到着を告げた。
私はベンチを立つと、孝義くんに片手を上げてバイバイと手を振ってから門へと向かった。
孝義くんは珍しく、大きく手を振り返してくれた。
サッカー部員が冷やかし、マネージャーがざわついた。
何だかくすぐったく感じた。
たぶん、いや、間違いなく、孝義くんとつきあったら結婚一直線だから、苦労もあるだろうけど幸せだろうな。
確信にも似た揺るがない信頼感があるわ。
それに引き替え、この男は……
門を出ると、イライラした様子で義人氏が突っ立っていた。
車の中にいればいいのに。
てか、不機嫌全開、珍しいな。
「どうしたの?」
「希和!あいつ、何かゆーてたか!?」
あいつ?
誰?
「とりあえず車に乗ってから話してくれる?目立つから。」
……さっきの孝義くんの発言で悪目立ちしちゃったのに、続いて義人氏にまで騒がれるのは非常にまずい。
さっさと車のドアを開けて自分で乗り込むと、義人氏は舌打ちして運転席へと乗り込んだ。
義人氏はしばらく無言だった。
けど、いつもより明らかに運転が荒くて、感情の起伏をよく表していた。
「ね。怖い。……忙しいみたいやし、もう、送迎してくれなくていいよ?今まで、ありがとう。明日から、電車で通学するわ。」
思い切ってそう言った。
さやかさんの出現も、春秋くんや孝義くんの告白も、変革の時が来ているということだろう。
いつまでも、子供ではいられない。
私はなるべく穏やかにキッパリと告げたつもりだったけど、義人氏にはどう届いたのだろうか。
義人氏は路肩に車を停めた。
「……彼氏ができたら、用済みか?」
驚くほど冷たい感情のない声だった。
「逆やわ。よしと……お兄さんのお見合い相手さんに悪いし。お仕事にも集中してほしいし。」
私のことは、敢えてスルーした。
義人氏は私を睨むように見据えて言った。
「今日の午前中、正式に申し込まれた。」
少し大きな声で孝義くんはそう言うと、練習に戻って行った。
正式の意味がわからないまま独りぽつねんとベンチに座っていた。
周囲のヒト……近くを通りかかった生徒や、部員、マネージャーには最後の孝義くんの言葉はハッキリ筒抜けだったらしい。
あからさまに噂の的になってしまって居心地が悪い。
鞄の中から本を取り出して読んでるふりをして過ごした。
奉行人奉書という、室町時代の書簡というか命令書から、当時の世相を読み解く本なんだけど……正直、頭に入って来なかった。
携帯が、義人氏の到着を告げた。
私はベンチを立つと、孝義くんに片手を上げてバイバイと手を振ってから門へと向かった。
孝義くんは珍しく、大きく手を振り返してくれた。
サッカー部員が冷やかし、マネージャーがざわついた。
何だかくすぐったく感じた。
たぶん、いや、間違いなく、孝義くんとつきあったら結婚一直線だから、苦労もあるだろうけど幸せだろうな。
確信にも似た揺るがない信頼感があるわ。
それに引き替え、この男は……
門を出ると、イライラした様子で義人氏が突っ立っていた。
車の中にいればいいのに。
てか、不機嫌全開、珍しいな。
「どうしたの?」
「希和!あいつ、何かゆーてたか!?」
あいつ?
誰?
「とりあえず車に乗ってから話してくれる?目立つから。」
……さっきの孝義くんの発言で悪目立ちしちゃったのに、続いて義人氏にまで騒がれるのは非常にまずい。
さっさと車のドアを開けて自分で乗り込むと、義人氏は舌打ちして運転席へと乗り込んだ。
義人氏はしばらく無言だった。
けど、いつもより明らかに運転が荒くて、感情の起伏をよく表していた。
「ね。怖い。……忙しいみたいやし、もう、送迎してくれなくていいよ?今まで、ありがとう。明日から、電車で通学するわ。」
思い切ってそう言った。
さやかさんの出現も、春秋くんや孝義くんの告白も、変革の時が来ているということだろう。
いつまでも、子供ではいられない。
私はなるべく穏やかにキッパリと告げたつもりだったけど、義人氏にはどう届いたのだろうか。
義人氏は路肩に車を停めた。
「……彼氏ができたら、用済みか?」
驚くほど冷たい感情のない声だった。
「逆やわ。よしと……お兄さんのお見合い相手さんに悪いし。お仕事にも集中してほしいし。」
私のことは、敢えてスルーした。
義人氏は私を睨むように見据えて言った。
「今日の午前中、正式に申し込まれた。」