夢が醒めなくて
へ?

「結婚を?つきあうだけじゃなくて?……結婚?」

さすがに、ショックだ。
てか、早すぎるだろ。

「この場合、つきあうことは、イコール結婚に直結してるらしいわ。」
吐き捨てるようにそう言うと、義人氏は私をじっと見た。
「希和は?それでいいんか?……どう思ってるんや?」

私?
私の気持ちなんて関係ないじゃない。
さやかさんと義人氏で決めたらいいやんか!

「私のことなんか、どうでもいいやんか。」
そう言ったら、義人氏は声を荒げた。

「よぉないわ!一生のことやぞ!ちゃんと考えろ!そりゃ孝義くんはいい子やし、ご両親も希和を可愛がってくださってるのはわかるけど、」

「待って!何て!?」

私?
驚いて、あわてて義人氏の言葉を止めた。

義人氏も、気づいたらしい。
私達、何か、勘違いしてない?

「正式な申し込みって、さやかさんとの結婚じゃないの?」
恐る恐るそう尋ねると、義人氏はすごい勢いで首を横に振り続けた。



その夜、義人氏抜きで、お父さんとお母さんは私を離れの茶室に呼んで、事の次第を正確に話してくださった。
孝義(たかよし)くんのご両親は、縁談の内談に来られたらしい。

「まだ早いってことは重々ご承知なんだけど……あちらは、ほら、生まれた時からご結婚相手の候補者を選定されてるお家だから、時間をかけての根回しが必要みたい。希和ちゃんが高校生になるのを待って、相談したかったんですって。」
お母さんは、ものすごく微妙な顔つきをしてらした。

「……はあ。」
私も何と返事すべきか、わからない。

「これ以上望むべくもない良縁だとは思う。しかし、まだ早い。向こうの都合で希和子の自由を奪いたくない。希和子が坂巻さんのご子息のことを、その~、なんだ、友達以上に想ってないのなら、断ろうと思う。」
お父さんもまた微妙な表情を、無理にしかつめらしく改めてそう言った。 

友達以上って、友達も含むって意味でいいのかしら。
微妙過ぎて返事できないでいると、お母さんが私の手を握った。

「私もね、まだ早いと思うの。希和ちゃんに、ずっと私の娘でいてほしい、ずっと一緒に暮らしたい……ってお願いするのは私のエゴだってわかってるのよ。何より、希和ちゃんの幸せを願ってるし、希和ちゃんの望みを叶えてあげたいの。……孝義くんに不満はないのよ。私も良縁だと思う。でも、背負うものが大きすぎて心配。もうちょっと、うちで伸び伸び暮らしてほしいの。」

……お母さん、支離滅裂……でも、本気で考えてくださってる……最後は涙ぐんでらした。
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