夢が醒めなくて
もしかしたら、由未お姉さんを早くに手放したこと、お嫁に出したことを後悔されているのもかもしれない。
いや、由未お姉さんの難病のこともあって、むしろご自分を責めてらっしゃる?

「お父さんとお母さんのおっしゃる通りだと思います。孝義くんは、春秋(はるあき)くんと同じ大切なお友達です。今はそういう風には考えられません。」
不思議なぐらい、感情がこもらない言葉だった。

私はたぶん、考えるのを放棄した。
決断を先延ばしにして、逃げた。
孝義くんには悪いかもしれない。

でも、まだまだお母さんとお父さんの子供でいさせてほしいと、切実に思った。

「希和ちゃんが誰を好きになっても反対はしない。ちゃんとその人と幸せになれるように応援する。……例え不倫でも、片想いでも、失恋でも、相談に乗るから。独りで悩まないでね。」

お父さんを先に母屋に帰らせてから、お母さんは私にそう言った。

……近親相姦でも?
いや、血のつながりはないわけだし、戸籍を分ければセーフってことは既に調べたけど。

って、私!
いい加減にしとかないと、本当につらくなっちゃうよ。
この優しいヒトを傷つけたくない。
ずーっと惜しみなく注いでくださる愛情を、私も感謝の気持ちで返して生きたい。

「はい。でも、不倫は嫌です。もし、恋しちゃいけないヒトを好きになってしまったら、あきらめます。」
そう言ったら、お母さんは苦笑した。

「……今はそう思ってても、恋に落ちちゃったら、どうしようもないものなのよ。独りで苦しんで判断しなくていいから。例えば、そうねえ、希和ちゃんが女のヒトを好きになっても、私は応援したげる。」

さすがにびっくりした。
「ないです!私、女友達もそんないないし!」

「そう?ふふ。何でもいいの。極端な話、お父さん以外のヒトなら、私は止めないから。」
……てことは、義人氏のことを好きになっても、お母さんは怒らないのかしら。
想像したら、胸が苦しくなった。
私は、泣きそうになりながら言った。

「ほんとは、今日、孝義くんに告白されて、うれしかったんです。保険ってゆーか。孝義くんなら、浮気とか絶対しなさそうだし、お寺のことは大変だろうけど、一生穏やかな幸せが約束されたような……安心感を覚えて。恋じゃないのに、そんな打算、失礼ですよね。」

うつむいてそう言ったら、ふわりと優しい香りに包まれた。
そっとお母さんが私を抱きしめてくださってた。

「……ごめんなさい。ごめんね。」

お母さんのほうが泣いちゃった。
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