夢が醒めなくて
すずらんの香り。
私の好きな草木の爽やかさと優しい花の香りが心地よくて……

「お母さん。私、恋愛も結婚もしたくないです。このまま、ここでずっとお母さんと一緒にいたい。」

ワガママ言ってる。
でも、それも私の望む形なのかもしれない。

このままがいい。
大人になりたくない。

お父さんとお母さんがいて……義人氏がいて……でもいずれは義人氏は出て行く?
……ちがうか。
義人氏、長男で跡取りだもん。

お嫁さんが来るんだ。

私、仲良くしてもらえるかな。
変な子、って思われちゃうかも。
考えたら、涙がポロポロこぼれた。

「うん。ごめんね。希和ちゃんを追い詰めちゃったね。でも心配しないでいいから。希和ちゃんがここにいてくれるの、すごくうれしいんだから。……でもね、好きなヒトができたら、遠慮しないでほしいの。思うように生きてほしい。それだけなの。」

お母さんが何を言いたいのかまでは、わからなかった。
でも、私の足枷にならないように、と思ってくださっての言葉だということは、ちゃんと伝わってきた。

黙って、お母さんにしがみついて、背中を撫でてもらっていると、気持ちが落ち着いてきた。
高校生になって、突然、いくつもの変化が起こってるのに、私だけが変われなくて……流されていいのか、自分で考えて踏みとどまるべきなのか、それすらわからなくて。

「本当なら、恋愛や結婚に夢を見る年頃なのに、うちに来たせいで、希和ちゃん、男のヒトを信じられなくなってしまったんじゃないかしら。」
茶室の縁側で、お母さんと寄り添い合って座って、朧月を眺めながら話した。

「……たぶん、施設にいた頃から。男って言うより恋愛感情を信じられないんやと思う。親の離婚や蒸発、育児放棄で施設に来た子達が多くて……ずっと不思議でした。どうして配偶者にも子供にも、責任を取らないんだろうって。でも、いつのまにかそうゆうものだと、あきらめました。」

だから、複数の女性と恋愛してる義人氏も、愛人のいるお父さんも、仕方ないと思ってた。
ただ、お母さんの気持ちを考えると、悲しかった。

悲しくて、切なくて……私は同じような想いをしたくない、って、今まで以上に強く思うようになった。

だから、どんなに義人氏が素敵で優しくても……大前提として論外。
対象外のはずだった。

なのに、どうして、こんなに、腹が立つんだろう。
悲しくて、くやしくて、ムカついてしかたない。

これが好きってことなんだろうか?
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