夢が醒めなくて
……目の端に孝義くんが照れ臭そうに目を伏せて、それからちょっと頬がゆるんだのが映ったけど、見ないふりをした。

「あ、そう。なんや。もう、2人、つきあえば?希和子ちゃん、めっちゃ孝義のこと妄信してるやん。」
春秋くんは苦笑してから、そうはやし立てた。

「妄信って!だって、孝義くん、嘘つかへんやん。」
ムキになってそう言ったら、孝義くんは頬を赤らめた。

「竹原。もう勘弁して。……わかったから。」
そう言ってから、照れくさそうに続けた。
「信じてくれて、うれしい。高子さまも喜ぶわ。」

……幽霊、喜ぶの?

「てか、小さい頃だけじゃなくて、今も幽霊と交信してるの?」

孝義くんの宗派ってそういうとこじゃなかったよね?

「最近は声しか聞こえんくなったけどな。」

声だけでも充分な怪奇現象だわ。

「でも、なんで私?」
「さあ?わからんけど、縁があるんやろ。生まれ変わりとか子孫やったりして。竹原が読みたいゆーてた本も、気がついたら目の前に置かれてたし。高子さまが出してくれたんやと思う。」

え!?

「けっこうな冊数借りたよ?『たかいこ』さまのハンコ入りの本。それ全部?」
驚いてそう聞くと、孝義くんは至極真面目にうなずいた。

「ああ。俺も驚いてる。高子さま、一旦成仏したと思ってんけど、守護霊ごっこを満喫してはるわ。……見えるかどうかわからんけど、今度、来るか?」

私以上に春秋くんは飛び上がりそうな勢いで反応した。
「行く!高子さま、めちゃ別嬪さんやん。拝見したいしたい!」

春秋くんの熱意に驚いた。

明治時代にとっくに亡くなってはる幽霊でも、美人さんには飛びつくんや。

……男って……。

不意に、ナイスバディな美人のさやかさんを思い出した。
胸がぎゅーっと締め付けられる。
義人氏……あれから彼女とどうなったんだろう。
おつきあいしてるんだろうか。

以前は、夜も土日も、義人氏はずっと私と一緒にいてくれた。
でも溝ができてしまって以来、お互いに距離をとってしまって……別行動が続いている。

私はお母さんと過ごすことが多いけど、義人氏はどこかへ出かけることが増えた気がする。
仕事って言ってるけど……仕事だけのはずがない。

さやかさんか、他の女性かはわかんないけど……誰かと逢ってるよね?
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